2024年4月25日(木)

安保激変

2017年11月2日

西太平洋地域にもイージス・アショアを
ハワイか、グアムか

 他方、日本のイージス・アショアは、中国のH-6K爆撃機や各種艦艇などから発射される巡航ミサイルを念頭に、SM-3とSM-6の混合によるIAMD能力を付与することを前提に導入が検討されているようだ。我が国の安全保障環境を踏まえれば、そうした方向性で検討が進んでいることは好ましいものの、それによりロシアが日本に対しても前述のような批判の矛先を向けることも想定し、日米欧が歩調を合わせてその批判や付随的なハラスメント行為を跳ね除ける覚悟をしておく必要があるだろう。更に言えば、1980年代のINF条約交渉時にSS-20がウラル以東に転換配置されるリスクが議論されたときと同様、射程2000kmを超えるロシアのGLCMが日本のイージス・アショアを念頭に、極東正面に追加配備される可能性についても留意する必要があるかもしれない。

図表2 INF条約違反とされるロシアのGLCM(射程2000kmと推定)が各地に配備された場合のイメージ (出展:Steven Pifer,"Multilateralize the INF problem," Brookings, March 21, 2017.) 写真を拡大

 なお中国や北朝鮮のミサイル脅威の高まりを前に、米国内では西太平洋地域にもイージス・アショアを配備すべきとの意見も出てきている。その具体的な候補となっているのが、太平洋軍司令部が所在するハワイと、米軍の前方展開戦略の一大拠点となっているグアムである。ハワイの場合、カウアイ島に設置されているイージス・アショアの試験用施設を実戦配備に切り替えるのが最も即効性があり現実的との指摘がある。ただし、(1)カウアイ島の設備は試験施設として、SM-3以外にも既に様々なミサイルを発射できる仕様となっていることから、実戦配備に移行した段階でINF条約が禁止するGLCM発射基に該当する可能性があることに加え、(2)試験用施設として適当なタイミングで使用できなくなることなどを理由とした慎重論も根強い。

 もう一つの候補地であるグアムには、既に2013年から弾道ミサイル対処用としてTHAAD配備されている。さほど大きくないグアム島の領域防衛にはTHAADでも十分であるが、(1)THAAD本来の役割は即応性の高い機動展開能力にあり、限りある防空砲兵旅団をグアム防衛に長期間専念させておく運用方法は必ずしも適切ではない、(2)THAADはBMD専用で巡航ミサイル対処能力がない、(3)ハワイ・カウアイ島のイージス・アショアを実戦転用できない場合の代替候補とするなどの理由から、グアムのTHAADを米本土に引き上げ、代わりにIAMDが可能なイージス・アショアを導入するということも考えられなくはないだろう。

 第二に注目されるのは、米国の本土防衛能力をめぐる問題だ。現在米本土は、アラスカ州のフォートグリーリーとカリフォルニア州のヴァンデンバーグ基地に配備されているGBI(GMD)と呼ばれる地上配備型ミッドコース迎撃システムによって、既に一定のICBM迎撃能力を備えており、2017年末までに44基の配備を完了することが予定されている。

 しかしながら、北朝鮮のICBM脅威の高まりを背景として、米国内では本土防衛能力を更に増強すべきとの声が高まっており、議会ではダン・サリバン上院議員(アラスカ・共)が主導する形で、GBIの配備数を最終的に100基まで増強することなどを謳った超党派法案が提出されている。既に同法案の一部は、FY2018国防授権法案本体に盛り込まれており、当面の目標として、2021年までにGBI×14~28基を追加配備する方向で調整が進められているようだ。

 この他、GBIの能力向上プログラムとしては、FY2018-21にかけて新設計迎撃体(Redesigned Kill Vehicle:RKV)の開発を完了させ、生産に移行することが予定されている他、FY2021以降には、1基のGBIから複数の迎撃体を放出し、従来迎撃が困難と言われた多数同時攻撃、赤外線を発するデコイ、個別誘導複数目標再突入体(MIRV)などに対抗する手段として多目標迎撃体(Multi-Object Kill Vehicle:MOKV)の開発が推進される見込みである(※MOKVはGBIのみならず、SM-3への搭載も計画されている)。


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