安保激変

2017年11月2日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

「中国との戦略的安定性」をどうするか

 このようにトランプ政権では、ミサイル防衛に関する包括的な能力向上が既定路線となりつつある。しかし、これにはいくつかの課題が残されていることにも留意が必要だ。

 まず技術的問題としては、GBIの柔軟性に関する問題がある。現行のGBIは、商用打ち上げロケットのエンジンを改良した三段式の巨大なブースターを使用することで、ICBMに対応する高度1700 km付近への迅速な上昇能力を確保している。しかしその一方で、GBIは三段目のブースターの燃焼が完了しなければ迎撃態勢に移行できず、それ以下の高度での迎撃に適さないという問題を抱えている。そこでミサイル防衛局は、エンジンの燃焼を3分の2に抑えることのできるステージ・セレクタブル・ブースターを開発して換装を進めることにより、最大射程での迎撃に失敗した場合でも、より短射程のGBIを追加発射してミッドコースにおける交戦機会を増やせるよう運用の柔軟性を高めようとしている。

 もう1つの課題は、中国との戦略的安定性に関する問題である。現在の44基というGBIの配備数は、BMDR2010の中で言及された「米本土のミサイル防衛は、北朝鮮およびイランからの限定的ミサイル脅威に対処するためのもので、ロシアと中国のミサイル能力を対象とするものではない(=中露との戦略的安定性を維持する)」との論理から導かれている。しかし、北朝鮮のICBM脅威を見据え、今後GBIの数を増やしていけば、現在50~60基(※75~100基との見積もりもある)程度とされる中国の限定的な対米ICBM戦力の相対的弱体化をもたらすこととなり、オバマ政権で設定された中国との戦略的安定性に対する認識は再定義されることになる。中国からしてみれば、自身が北朝鮮と同一視されることは看過できないはずであり、一定の対米抑止力を維持するため、ICBMやSLBMの量的増強や多弾頭化、核弾頭の製造ペースを加速させるであろうことも留意しておく必要がある。

宇宙配備センサーシステムの強化を

 第三の注目点は、弾道ミサイル迎撃の精度向上に寄与する宇宙配備センサーシステムの強化である。現在、BMDにおける最大の技術的課題は、ミッドコースにおける目標識別だと言われている。発射直後のブースト・フェイズにある弾道ミサイルは、エンジンの燃焼によって強い赤外線を発していることや目標自体が大きいことから、探知や追尾はさほど難しくない。しかしエンジンの燃焼終了とともに、大気圏外を飛翔するミッドコース・フェイズに入ると、赤外線反応は弱まり、なおかつ加速に用いたブースターの分離が始まるため、追尾しなければならない目標のサイズが徐々に小さくなっていく。また、弾頭を保護しているフェアリングの分離や、迎撃を難しくさせるデコイ(囮)の放出、多弾頭の切り離しなどもミッドコースで行われる。こうした状況下で迎撃を成功させるには、分離した各種部品やデコイなどと一緒に大気圏外を移動する本物の弾頭を正確に識別し、迎撃ミサイルを適格に誘導する必要があるが、現在これらの追尾・識別を行うBMD用センサーの殆どが洋上や陸上に配備されていることから、探知範囲に限界がある。そこでミサイル防衛局は、これらに必要なセンサーを宇宙に配備し、ミッドコースでの識別能力を向上させようとしている。

 ミサイル防衛局は、2009年から宇宙追尾監視システム(STSS)と呼ばれる実験用の赤外線・光学両用センサーの打ち上げを開始し、2013年には2基のSTSSを地球上の各種BMDシステムと連携させ、MRBM級標的の迎撃に成功した。しかし、STSSの後継となる衛星プログラムは予算化が進められておらず、打ち上げ済みのSTSSも実戦用のBMDシステムとは連接されていないのが現状である。今後米国では、ICBM対処の重要性が今まで以上に高まることに加え、宇宙監視網の強化は大気圏ギリギリを這うように飛翔する極超音速滑空弾頭を追尾する際にも有効な手段となることから、トランプ政権のBMDRが常続的なミッドコース識別用衛星の開発を後押しするかが注目される。

図表3 現在配備されているBMD用センサー網(筆者作成) 写真を拡大

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