チャイナ・ウォッチャーの視点

2017年11月6日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団特任研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 政治報告を聴く限り、中国の最大の関心は自国の経済発展にあり、中でも、鄧小平氏の指示による「(2020年までに)全面的な小康状態を必ず達成する」ことが必須の課題となっている。軍事力は、この経済発展を保護するために必要だとされる。

 日本のメディアは、政治報告が「海洋強国をアピールした」ともしているが、政治報告の中で、「海洋強国」という表現が使われたのは1回で、13個ある項目の5番目の「新発展理念を貫徹し、近代化経済体系を建設する」という項目の中で使用されている。

 中国にとっては、海洋強国になることも、経済発展の必要性から来ていることが窺える。中国にとって、海洋は資源を得る場所として重要であるが、政治報告の中では、海洋が内陸部と同様の辺境として意識されている。中国の言う海洋強国は、独立阻止を含む辺境コントロールでもあるのだ。

 海洋強国の実現のために中心的な役割を果たすのは海軍であるように思われるが、海軍の名称は、10番目の項目の「中国の特色のある強軍の道を堅持し、国防と軍隊の近代化を全面的に推進する」の中に1回使用されるだけで、陸軍及び空軍と同様である。中国の言う海洋強国は、必ずしも海軍力の増強のみを指すものではない。

 さらに言えば、軍事に関するこの10番目の項目は、中国語の文字数で言えば、全体の3%にも満たない。そもそも党大会は、党の体制や統治方針について議論することが主な目的であり、外交や安全保障について多くを議論する場所ではないが、それでも党内政治における課題として、軍事の優先順位は決して高くないということである。

 また、内容は、2020年までに「機械化と情報化を達成する」とし、その後、「軍事のAI化」「ネットワークを基礎とした統合作戦能力(米軍のネットワーク・セントリック・オペレーションを意識している)」等を推進するとしている。人民解放軍の発展においても、鄧小平氏の指示の期限であり、「二つの百年」の一つ目の百年(2021年、中国共産党結党100年)でもある2020年を意識せざるを得ないのだ。

「軍人を社会から尊敬される職業にする」ために

 一方で興味深いのは、「退役軍人の管理と保障」、「軍人軍属の権益の保護」、「軍人を社会から尊敬される職業にする」ことと「武装警察の改革」が挙げられていることである。中国国内では、軍事に関して、退役軍人の処遇が悪くて抗議が起こるなど党中央に対して不満が高まっている。

 本来、退役軍人には、退役した時の階級に見合う地方公務員の職が与えられることになっていたが、退役軍人の数が多すぎて、地方公務員のポストでは賄いきれなくなった。そこで、退役軍人を受け入れるよう民間企業に迫ったのだ。民間企業は、党や軍の要求に応じて退役軍人を受け入れなければならないが、1年もすると彼らを首にしてしまう。結局、退役軍人は職にあぶれることになる。

 退役軍人の姿は、現役の人間にとって明日は我が身である。そこで、中国は、現役軍人の給与を、少なくとも2016年と2017年、毎年50%増加させている。軍人は退役後も、現役の時の給与の80%を受け取れることから、給与が上がること自体、退役後の生活に余裕をもたらすことにつながるのだ。

 それでも、「軍人軍属の権益の保護」が課題とされているのは、いくら給与を上げてみたところで、「反腐敗」が展開される以前に不当に得ていた利益には比べるべくもないのかもしれない。さらに、軍人の福利厚生に使用されるはずの予算が、その予算を管理する者たちによって違法に執行されるという状況が未だに残っており、軍人の不満が溜まっている可能性もある。

 例えば、2000年代初めから、下士官の宿舎不足が問題視され、予算が付けられてきたが、10年以上経っても解決せず、軍系のメディアは思い出したように下士官の宿舎不足を取り上げていた。中でも「下士官の宿舎は下士官に使わせよう」といった内容の報道は、下士官宿舎建設の予算で別の目的の建築を行っていたことを窺わせる。

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