チャイナ・ウォッチャーの視点

2017年11月6日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団特任研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 こうして腐敗してしまった人民解放軍は、国民から全く尊敬を得ることができなくなった。「尊敬を得られなくなった」という表現は、むしろ寛大に過ぎるかも知れない。「反腐敗」が始まってから、街の中で話を聞いても、誰もが「最も腐敗しているのは人民解放軍だ」と言っていた。そこには、軽蔑のニュアンスさえ感じられた。

 そこまで軍を締め上げてしまったからこそ、「軍人を社会から尊敬される職業にする」ことが、軍の掌握のためにも必要となってきたのである。

 そして、軍の改革を進めてきた習近平総書記が、現在では、武装警察に政治的な問題があると認識していることになる。1989年6月4日の「天安門事件」以降、その勢力を拡大してきたと言われる武装警察は、現在では、中国国内の対テロの主役としても影響力を増している。その影響力は、習近平総書記や党中央が警戒するほどになっているのだろう。

党大会直前、中央軍事委員を大量摘発

 習近平総書記が進めてきた軍の改革は、習近平氏個人に権威と権限を集中する狙いがあると言われ続けているが、中央軍事委員会の人事もこれを示唆している。

 2017年9月1日までに、中国人民解放軍の首脳部というべき中央軍事委員会の構成員が、「規律違反」の疑いで相次いで拘束された。報道によると、中央軍事委員の前海軍司令員・呉勝利上将ら3名が拘束され、他に1名が更迭された。委員11名のうち4名が排除されたのだ。党大会直前の中央軍事委員の大量摘発は極めて異例な事態である。

 この時期に、習近平総書記の進める強引な権力掌握をめぐり党内闘争が激化しているとの見方もある。呉勝利上将は、その後、メディア等に登場しているので、摘発について明確ではないが、前統合参謀部参謀長の房峰輝上将、中央軍事委員会政治工作部主任の張陽上将が、事実上の身柄拘束となる「双規」を通告されたという。さらに、空軍司令員の馬暁天上将も更迭が確認されている。

 中央軍事委のメンバー以外では、張氏の部下で政治工作部副主任を務めた杜恒岩上将が、同様に規律違反の疑いで拘束されている。拘束や更迭された幹部は、いずれも軍の最高階級である上将であり、習近平総書記が、軍の指導層を信頼していないことを示唆する。

 房峰輝上将、張陽上将、及び馬暁天上将の3名は、胡錦濤前総書記に近く、軍内の「胡錦涛派」の中心人物とされることから、習近平氏の権力掌握に対する抵抗勢力と位置付けられたとも考えらえる。

 彼らに代わって選出された中央軍事委員は、以下のとおりである。まずは、現副主席の許其亮上将(元空軍司令員)だ。習近平総書記と関係が深く信頼が厚いとされる福建省での勤務経験を持つからだとされる。そして、現委員の張又侠上将(前装備開発部長)も留任し新たな副主席となった。彼と習近平総書記は、父親同士が戦友で、信頼関係が深いとされる。もう一名、留任したのが、魏鳳和上将(前ロケット軍司令員)である。彼は、軍の改革に合わせて抜擢されてきており、習近平総書記の信頼が厚いと言われる。

 新たに登用されたのは、李作成上将(統合参謀部参謀長)、苗華上将(政治工作部主任)、張昇民中将(軍規律検査委員会書記)で、委員数は8名から4名に半減した。中央軍事委員会は、全体で11名から7名へと構成員が減少したのだ。

 19大以前に新たに登用されると予想されていた、韓衛国上将(陸軍司令員)、宋普選上将(後勤保障部長)、丁来杭中将(空軍司令員)、沈金龍中将(海軍司令員)は中央軍事委員会入りしなかった。沈金龍中将を除く2名は福建省での勤務経験があり、習近平総書記が、「自らが信頼する福建閥で中央軍事委員会を固める」という予想は外れたとも言える。

 しかし、中央軍事委員会の人事の結果は、別の意味を浮き立たせた。軍種の権威を低下させたのである。陸軍司令員、海軍司令員、空軍司令員がいずれも中央軍事委員に登用されなかったからだ。指揮系統にある統合参謀部参謀長が中央軍事委員に残り、管理系統である各軍種司令員を外したことは、普段から部隊を管理する者たちの権威を下げ、習近平中央軍事委員会主席を頂点とする統合された一本の指揮系統の権威を高めたのだと言える。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る