チャイナ・ウォッチャーの視点

2017年11月6日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団特任研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 党中央軍事委員会の権威を高めることは、習近平総書記を始めとする党の人民解放軍に対する相対的地位の向上を意味し、「党が軍を指揮する」ことを強化する手段ともなっている。海空軍司令員が中将という階級に抑え込まれたことも、今回の中央軍事委員人事につながっていたとも考えられる。

 習近平総書記及び党中央にとって鄧小平氏の指示は絶対であり、2020年には、「小康状態を達成した」と宣言しなければならない。対外的経済活動には軍の保護が必要であると考える中国は、2020年までに空母を中心とした軍事プレゼンスを、中東を含む中国の西側に展開することを計画している。

 そして、これまでも、中国はもう一つの「百年」である「中華人民共和国成立100年(2049年)」までに米国を凌駕する軍事力を保有することを目的としていると分析してきたが、今回の政治報告ではそれを、「今世紀半ばごろまでに「世界一流の軍隊」を建設する」という表現で明示した。

なぜ次の指導者を明らかにしなかったのか

 2020年以降の「新時代」を指導するために習近平総書記の権威を高めるという試みは、政治局常務委員の人選にも表れている。一般的に、総書記は2期10年の任期となっているが、それは、権力移譲が行われてから5年目の党大会までに、1期目終了時に「7上8下」と呼ばれる68歳定年制に抵触せず、2期目が終わったところで68歳を超えているように次期総書記が選ばれてきたからでもある。

 19期1中全会では、常務委員に、習近平総書記と李克強首相(62)が残り、新たに栗戦書・党中央弁公庁主任(67)、汪洋・副首相(62)、王滬寧・党中央政策研究室主任(62)、趙楽際・党中央組織部長(60)、韓正・上海市党委員会書記(63)が入った。趙楽際氏は王岐山氏(69)の後任として党中央規律検査委員会書記となっている。

 この政治局常務委員の人選は、5年後の指導者を示さなかったと言える。全員が60歳代なのだ。これでは、全員が2期目には「7上8下」に抵触する。2期10年を務めることができる候補がいないということだ。

 50歳代で、次世代指導者と目され、政治局常務委員となることが有力視されていた、陳敏爾・重慶市党委書記(57)及び胡春華・広東省党委書記(54)は政治局常務委員入りしなかった。習近平氏の側近と言われる陳敏爾氏と胡錦涛氏に近いと言われる胡春華氏の双方が外されたことは、バランスをとったものと見ることができるが、問題は、なぜ次の指導者を明らかにしなかったかということである。

 それは、メディアでも報じられているように「権力の分散を避けるため」であるが、それは必ずしも習近平氏の3期目の続投を意味している訳ではない。19大の目的は、習近平氏の権威を高め、中国共産党統治の正統性を改めて示すことである。権力は習近平氏に集中していなければならないのだ。

 しかし、習近平氏の権威を高めるということのコンセンサスはとれていても、どこまで権威を高めるのか、どこまで権力を集中するのか、という程度の問題では、党内にも異なった意見があると言われる。毛沢東時代の誤りを繰り返すことなく、集団意思決定という党の根本原則を厳格に守りたい指導者たちは、習近平氏の権力掌握を警戒しているだろう。

 習近平氏本人は、20大以降も中国のトップで居続けたいと考えているかもしれないが、そう簡単には進みそうにない。2020年に鄧小平氏の指示を達成した後、習近平総書記が「権威ある指示」を出し、共産党の指導継続を固めた上で、政治局常務委員に、陳敏爾氏と胡春華氏を加える可能性もある。党中央委員会全体会議(中全会)であれば、その決定ができるのだ。

 第一期習近平政権の5年間は、党の権威を高めるために、これまで放任してきた政治、経済、社会をそれぞれに締め上げてきた。管理して成功してこそ、共産党統治の正統性と正当性が確保される。19大では、党の権威をさらに高めることが決まったに過ぎない。それでも多くの駆け引きの末にようやく形になったのだ。中国が具体的にどのような政策を採っていくのかは、これから注意していかなければならないということである。
 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る