2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月16日

 この記事は、クルド自治区での独立をめぐる住民投票後の地域の情勢を良く描写しています。

 一言で言ってしまえば、キルクークにいたペシュメルガが、侵攻するイラク軍に抵抗をせず撤退したので、軍事衝突は激しくならず、まだ話し合いの余地が残った、ということでしょう。アバディ首相のキルクーク共同統治案を探求すること、クルドの自治権強化とイラクでの真の連邦主義について対話することが、唯一の平和的解決への道のように思われます。

 エコノミスト誌は、交渉の呼びかけは遅すぎたという懸念を表明しています。それは確かに正当な懸念です。クルド自治政府側も中央政府のアバディ首相も、政治家として大きな決断をして、懸念が当てはまらないことを示すことが求められます。そうしないと、「イスラム国」掃討後のイラクは、再び戦乱の地になってしまうでしょう。

 多くの周辺国や大国の助言を無視して、独立の住民投票を強行したバルザニには、今回のような事態の進展に大きな責任があります。国際航空機の乗り入れ禁止など諸制裁を呼び込んでしまったともいえます。キルクークを奪取され、何もできなかったことから、バルザニの指導力は大きく傷つきました。バルザニは、11月1日付での退任表明に追い込まれています。バルザニは住民投票の無効化をイラクの中央政府から求められ、10月15日には拒否したとされますが、クルド自治政府側としては、住民投票の法的効果はイラク中央政府との交渉の結果で決まるなどといった姿勢は取りうるのではないかと思われます。

 トランプが米・イラン関係をこの時期に悪化させたのはまずい結果をもたらしているとの記事の指摘はその通りです。米国の対イラン外交には問題が多く、ただでさえ不安定な中東をさらに不安定化しています。

  
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