WEDGE REPORT

2017年11月11日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

6.フルシチョフは戦争を知る平和主義者だった

 本書にはこう書かれている。 

受けとめきれないほどの破壊と苦しみを見てきたフルシチョフは、カストロが死と自己犠牲にこれほど強い執着を持っていることは衝撃だった。フルシチョフはおそらくこのときはじめて、自分とカストロの「世界観」のちがいと、人命の重みのとらえ方のちがいを理解したのだろう。

 第一次世界大戦、ロシア内戦、大祖国戦争をくぐり抜けてきたフルシチョフは、カストロの助言に従えばどうなるかを考えて、身震いした。アメリカは「多大な損失」をこうむってもきっと持ちこたえられる。「社会主義陣営」もそうだ。しかしキューバ人たちが戦って「英雄的な死」を遂げても、彼らの国土は核交戦によって破壊されてしまうだろう。しかもそれは「地球規模の熱核戦争」のはじまりとなるのだ。 

 コメント:冷戦のさなかだったが、フルシチョフはぎりぎりのところで、人としての良識を持っていた。翻って第二次世界大戦中の日本の為政者の何人がこのような良識を持っていたのかと疑問を持たざるを得ない。

7.ケネディは一兵卒にとっての戦争を知っていた

 一方、太平洋戦線で中尉として哨戒魚雷艇を指揮したケネディは、最前線を経験した者ならではの目で現代の戦争を見るようになっていた。それはホワイトハウスやペンタゴンの観点とはまったくちがっていた。

 「ここで起きている戦争は汚いビジネスだ」

 1943年、彼はデンマーク人のガールフレンド、インガ・アーヴァドにそう書き送った。彼らの戦場となった島のいくつかは「イギリスの石けんメーカー、リーヴァ社が保有する島だ(イギリス領であったソロモン諸島のこと)。 

 彼は「全面戦争」とか「総力戦」といった抽象的な言葉を軽蔑していた。

戦争のことや、たとえ何年かかっても何百万の兵が犠牲になっても日本を打ち負かすといったことを話すのはじつに簡単だ。しかしそういうものの言い方をする人は、自分の発言についてよく考えてみるべきだ。われわれは何十億ドルもの資金、何百万人もの兵士といった表現にあまりに慣れているので、死傷病数千人と聞いても、大海の一滴のようにしか感じなくなっている。だがもしこれらの数千人が、[日本の駆逐艦にまっぷたつに引き裂かれた]哨戒魚雷艇にわたしとともに乗り込んだ10人と同じように生きたがっていたとすれば、大義名分を考える立場にある人々は、次のことを十分に留意したほうがよい。人々に努力を強いるからには、目標は、明確で力の尽くしがいのあるものでなければならない、ということを。そうでなければ、すべてが灰になってしまい、戦争が終わったあとに多大な困難に直面することになるだろう

 結局、フルシチョフとケネディは書簡の交換、水面下の交渉などにより、キューバからの核ミサイルの撤去、キューバの保全、トルコにあるアメリカの核ミサイルの撤去(秘密交渉)で妥協し、核戦争を回避した。

 コメント:キューバと北朝鮮はもちろん同じではない。またアメリカが戦争では勝利し、政治(統治)では負けたイラクとも違う。宗教や民族で分断されていない。核ミサイルも自前のもので、ソ連や中国の影響力もそれほどでもない。また先軍政治の独裁国家は危機を煽る敵国の存在こそが不可欠であることを忘れてはならない。金正恩にとってアメリカとの平和条約は破滅への道かもしれない。そして、日米韓・北朝鮮のトップの誰ひとり、一兵卒として戦場で戦ったことはない。

 それらの相違を考慮した上で、北朝鮮危機に係る一部の為政者たちの汚い言葉を思い返すと、本レポートは、著者のマイケル・ドブスとケネディ大統領の以下の言葉で終了するのが相応しそうだ。

 政治家たちがお決まりのように対立陣営を悪しざまに言い立てていた時代に、彼はソビエト人にも自分たちと共通するものがあることをアメリカ人に思い起こさせた。「わたしたちはみんなこの同じ惑星に住み、同じ空気を吸っています。そして誰もが子供たちの未来をたいせつに考えています。そして誰もがいつか死ぬ運命にあるのです」

  
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