WEDGE REPORT

2017年11月17日

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「サッカーが上手い」だけではダメ

 東南アジアの選手がJリーグで活躍することで、放映権以外にもさまざまな経済効果が生まれる。2016年にベトナム代表のグエン コンフォン選手(22)が水戸ホーリーホックに移籍した際は、ベトナム航空が水戸ホーリーホックのスポンサーとなって観戦ツアーが組まれ、ハノイ空港―茨城空港のチャーター便まで飛ぶようになった。

ベトナムのグエン コンフォン選手(22)
ⓒJ.LEAGUE

 しかし、東南アジアの有望選手をどのように見つけてくるのか。

「東南アジアに選手を見に行くエージェントはまだ少ないので、私たちが現地へ赴き、良い選手はいないかと聞いて回っています。ただ、ブランドの向上が目的なので、単純にサッカーが上手ければよいということでもなく、スポンサーは付いているか、どれほど人気があるかなども指標としてリストアップしていきます。そうやってリストアップされた選手を日本のチームに紹介するわけですが、いきなり移籍というわけにもいかないので、まずは1~2週間、練習に参加してもらうところから始めます。その時は、現地のメディアも招くようにしています」(大矢氏)

 ヴァンフォーレ甲府が2013年にインドネシアのメッシと呼ばれるアンディック・ベルマンサ選手を招いた際は、練習の合間にブドウ狩りや富士登山に連れ出し、それを現地のメディアが大々的に報じた。現地のメディアを使ってまともに観光をPRしようと思えば莫大な広告費が必要となるが、現地のスター選手を練習に招くだけなら、20万円程度の渡航費で済む。

「発想の原点には、中田英寿選手がイタリアのペルージャに移籍した時の記憶がありました。当時、日本のメディアがペルージャと連呼したことで、あの小さな都市の日本での知名度は飛躍的に上がったんです。それはいま日本各地が取り組んでいる地域のブランド認知を広げてインバウンドにつなげる施策と同じ効果を生みます。中田選手がペルージャで活躍した当時と現在で異なるのは、SNSでの囲い込みが可能になったことです」(大矢氏)

 ひとたびSNSで接点をつくれば、そこから継続的に情報を流すことができる。自国の代表選手の活躍を応援してもらいながら、日本の地方都市はASEANの人々に魅力を売り込むことで、インバウンドに繋げていくことができる。

ターゲットは「2026年のW杯」

 順風満帆のように思えるJリーグのアジア戦略だが、課題はないのだろうか。

「ASEANの国々ではイギリスのプレミアリーグが圧倒的な人気を誇っていますが、最近ではブンデスリーガ(ドイツ)やラリーガ(スペイン)の知名度も上がり、競争環境はますます厳しくなっています。そうした中で、Jリーグは2026年をターゲットイヤーに据えました。2026年のW杯から、アジアの出場枠が現状の4.5枠から8.5枠に拡大されるんです。これはASEANの国々にとって、W杯出場が現実的な目標に変わることを意味します。それまでにASEAN各国代表の中心選手が、Jリーグで活躍している状態になっていればよいと考えています」(大矢氏)

タイのチャナティップ選手
ⓒJ.LEAGUE

 かつてはW杯出場など夢のまた夢だった日本サッカーが、いまやW杯の常連国となっている。大矢氏によれば、あんなに弱かった日本が短期間でここまで強くなれたことに、東南アジアの国々は強烈な憧れとリスペクトを抱いていると言う。だからこそ日本のノウハウが求められており、それを惜しみなくシェアすることで、Jリーグはアジアの盟主になろうとしている。

 2017年11月現在、ASEAN出身のJリーグ選手は4名いる。JリーグはASEANを中心に9カ国のリーグと提携しているが、今年から提携国の選手は外国人枠ではなく、日本人と同じ扱いで出場できるようルールの改正も行った。「チャナティップ選手によって実証された経済効果をデータ化し、第二、第三のチャナティップを連れてくることが目下の目標です」と大矢氏は語る。

  
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