2024年4月24日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年10月25日

 おかげで軍を巻き込んで国を二分するような権力闘争は起きていないのだが、党の権力と軍を隔離したために、2つの組織の間のコミュニケーションが極めて薄くなっているという問題も持ち上がってきているのだ。つまり、当然引退すべき胡が軍委に残るのは、共産党のコントロールがそうしなければ機能しないと党自身が危機感を持っているとも考えられるのだ。

 党の中で江派と胡派が対立しているというのは、具体的に何が日本と関係あるのか分からないが、共産党が軍をコントロールできなくなっているとしたら日本にとってそれは大問題である。

習の顔色をうかがっても
中国の現実は見えない時代へ

 このことに代表されるように、習の時代の中国は、軍に限らずさまざまな組織が国益よりも自分たちの利益を追求する、そんな時代が始まると考えた方がよい。とくに顕著なのが、中央の言うことをきかなくなる地方という図式だろう。

 地域経済と歳入が一体化している地方政府は、とにかく地域を潤わす産業の誘致に積極的で優遇政策も手厚い。一方で開発のために平気で土地を取り上げるなど弱者に厳しくなりがちで、そこには典型的な金持ち優遇がまかり通っているのだ。

 だが、言うまでもなくこの状況は党中央にとっては決して望ましいことではない。

 では、どうしたらよいのだろうか。現状で党中央ができるのは、方針を打ち出して呼びかけることだけだ。

 奇しくも習が軍委副主席に選出された5中全会では、和諧社会に代わって新たに「包容的発展」という言葉が強調されるようになった。これは「和諧」をさらに強めた言葉で、背景にあるのは格差の拡大が止まらないことへの危機感だ。つまり習にとって大きいのはライバルとの闘争ではなく、ライバルをも含めた共産党という大きな船の行方なのだ。

 だから、かつて地方の書記時代には1年の3分の1を視察に費やした改革的手法が話題だった習が、「党の指導」などという言葉を盛んに口にするようになり、「胡錦濤や温家宝など1つ上の世代よりよほど保守的」と揶揄されるようになっているのだ。

関連記事 : ポスト胡錦濤 習近平の政治感覚 (2009年11月11日)

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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