2024年4月17日(水)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年10月28日

 米国の経常赤字は世界最大であり、輸出増を通して経常赤字を削減することが悪いとはいえない。しかし、世界経済の成長が芳しくなく自然に輸出が増えにくい現状では、米国はドル安でなければ輸出倍増が難しいのも理屈だ。支持率が低迷しているオバマ大統領としては、ドル安で輸出を増やし、景気回復につなげたいと思うのも当然だろう。

 欧州のユーロ安も、絶対客観的に容認される動きとまでは言えない。そもそも、ユーロ安には、ギリシャ問題のように過度な不均衡拡大による成長のツケが効いている。米国同様、良好な成長を遂げているときは不均衡拡大を問題視せず、バブルが崩壊した途端通貨安を正当化するのでは、自己中心的に見える。ちなみに、日本では、ユーロとは逆にバブル崩壊後の95年にかけて円は対ドルで史上最高値になった。

 こうなると、ドル安政策を採用しているように見える米国や、みずから招いた不均衡拡大のツケで通貨安となっているユーロ圏が正しいかも問題になってしまう。見方によっては、ドル安・ユーロ安の影響を受けている他国通貨こそ被害者とすら言えるのかもしれない。

通貨安回避は相互監視しかない

 主要国通貨の安い、高いが客観的に測れない状況は円についても当てはまる。円はリーマン・ショック後ドルに対して25%切り上がっており、切り上がりの程度は主要国通貨の中で一番大きい。

 しかし、この円高でも、リーマン・ショック前の円安が元に戻ったもので、絶対的な円高ではないとの見方がある。そして、円高阻止だけを狙い円安誘導が一切念頭になかった日本の為替介入が通貨安競争を助長するとの意見すら出ている現状では、通貨安競争回避に向けた対応の難しさはますます浮き彫りになる。

 もっとも、通貨安競争は回避しなければならない。人民元を思うように切り上げない中国に対して、米国の議会は、意図的な通貨安政策に対して、通貨安分を埋める相殺関税を相手国にかけるといった法律を作ろうとしている。この法案が成立すれば、それこそ通貨切り下げ競争が保護主義の高まりを加速させた大恐慌期の苦い経験が再来するようなもので、決して世界経済にとってプラスにはならない。

 通貨安競争を回避する最良の対策は、2つくらいしか思い当たらない。一つは、絶対基準を明確にすることだ。今回のG20財務相・中央銀行総裁会議に際しては、経常黒字を一定の範囲内に抑える基準が取り沙汰された。金本位制といった、絶対的な基準が考えにくい現状では一案ではある。しかし、経常黒字が大きいドイツや中国といった国にとっては受け入れにくく、かといってどの国も該当しないほどの大きな経常黒字対GDP比では実効性がない。

 そこで、登場するのが、G7やG20などの国際会議で通貨安競争に一致して反対する姿勢を繰り返し互いに確認することで、どの主要国も目だった通貨安政策を採りにくくしていくやり方だ。これならば、円高で困っている日本も、通貨安競争阻止へのスクラムづくりをしていくことが出来る。

 通貨安競争回避には即効性がある強力な対策は考えにくい。しかし、かつての大恐慌期のような不毛な切り下げ競争は起こしてはならない。せっかくG20会合があるのだから、この場を通じて互いに監視しあう枠組みを作っていくことが、せめてもの現代の知恵といえる。


新着記事

»もっと見る