2024年4月24日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2017年11月21日

女性であるがゆえに……

 ヒラリーは自分が女性であるがゆえ嫌われているとも主張する。根本に女性蔑視という性差別が、政治の世界だけに限らずアメリカ社会にはあるとみる。友人でもあるフェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグの言葉を引用しながら、自分が嫌われる理由を説明する。これはヒラリーの本音だろう。

 She told me that if there was one thing she wanted everyone to know from her book Lean In: Women, Work, and the Will to Lead, it’s this: the data show that for men, likability and professional success are correlated. The more successful a man is, the more people like him. With women, it’s the exact opposite. The more professionally successful we are, the less people like us.

 「シェリル・サンドバーグは私に言ったことがある。彼女の著作『リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲』の中でひとつだけ、みんなに知ってもらいたいことがあるとしたらこれだと。データによれば、男性であれば、好感度と仕事での成功は比例する。男性は成功すればするほど、もっと人に好かれる。女性の場合、全く逆になる。女性は仕事で成功すればするほど、好きになってくれる人が減る」

 本書の別の個所では次のように心情を吐露する。

 Moreover, I have come to terms with the fact that a lot of people—millions and millions of people— decided they just didn’t like me. Imagine what that feels like. It hurts. And it’s a hard thing to accept. But there’s no getting around it.

 「さらに、多くの人、何百万人という人々が、とにかくわたしのことを嫌っているという現実を認めざるを得ない。どんな気持ちか想像してほしい。胸が痛む。受け入れるのが難しいことだ。しかし、避けては通れないことなのだ」

 女性差別だけではない。大統領選の投票所での出口調査のデータを分析し、トランプに投票した有権者たちが最も気にしていたのは、人種やテロリズムの問題であり、根本には人種差別の意識があるとヒラリーはみる。アメリカ国民にかつてはあった博愛や相互扶助の精神、寛容さや愛情といった大切な価値観がアメリカでは失われていると嘆く。トランプに投票した人たちにも対しても次のように手厳しい。

 And while I’m sure a lot of Trump supporters had fair and legitimate reasons for their choice, it is an uncomfortable and unavoidable fact that everyone who voted for Donald Trump—all 62,984,825 of them—made the decision to elect a man who bragged about sexual assault, attacked a federal judge for being Mexican and grieving Gold Star parents who were Muslim, and has a long and welldocumented history of racial discrimination in his businesses. That doesn’t mean every Trump voter approved of those things, but at a minimum they accepted or overlooked them.

 「多くのトランプ支持者たちはちゃんと筋の通った考えのもと投票したのだと思う一方で、62,984,825 人もの有権者がドナルド・トランプを選ぶ決断をしたというのは、不都合だが否定できない事実だ。セクハラを自慢し、メキシコ系だということを理由に連邦判事を批判したり、戦死した息子を悼む両親をイスラム系だという理由でないがしろにしたりする男を選んだわけだ。しかも、手掛けていた事業では長期にわたり人種差別をしていた記録が残っている男をだ。トランプに投票したすべての有権者がこうしたことを是認したわけではないだろうが、すくなくとも大目にみたわけだ」

 選挙で負けた直後は落ち込んだヒラリーも、すぐに気持ちを切り替え母校での講演などを気軽に引き受けるなど充実した生活を送る。本書の終わり近くには、次の世代への期待とともに、前向きなコメントが続く。ヒラリーは強がっているわけでもなく、あくまでも前向きな人なのだろう。最後に、そうしためげない気持ちを記した一節を引用して、本稿を終わりとしたい。

 There were plenty of people hoping that I, too, would just disappear. But here I am. As Bill likes to say, at this point in our lives, we have more yesterdays than tomorrows. There is no way I am going to waste the time I have. I know there is more good to do, more people to help, and a whole lot of unfinished business.

 「わたしのことも、とにかく消えてほしいと思っている人はたくさんいた。でも、わたしはここにいる。夫のビルが好んで言うように、この歳になると、これから迎える明日という日よりも、これまで積み上げてきた昨日という日の方が多い。残された時間を無駄に過ごすわけにはいかない。社会をよくするためにわたしがやるべきことはもっとあるし、もっと多くの人たちを助けなければならないし、やり残したことがたくさんあるのだから」
 

  
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