2024年4月21日(日)

Wedge REPORT

2010年10月29日

 このような人件費の高騰に加えて、2003年にはSARS、2004年~05年頃には反日デモも活発化してきたことにより、2006年頃から「チャイナ・プラス・ワン」という、中国以外の国へ一定の投資を行い、リスクの分散化と低減を図る動きが見られ始めた。その候補先は、ベトナム、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、インド、バングラデシュなどが挙げられる。

 これらの地域は、元々欧米向けの繊維製品の縫製を担っていたため、縫製施設自体はあったのだが、前出の繊維メーカー関係者が聞いた話では、「バングラデシュの工場では、元々ユニフォームやジーンズなど比較的縫製が容易なものを扱っていた。日本向けの製品は、それよりも高度な技術が必要とされるため、ミシンを縫う人と、反対側で布を引っ張る人の2人がかりでやっている」ということもあるぐらい、技術的には発展途上の段階。バングラデシュの人件費は、JETRO発表の「アジア主要都市・地域の投資関連コスト比較」2009年統計によると、中国国内で最低賃金の高い北京や上海地域と比較すれば約6~7分の1、最低賃金がまだ低めの瀋陽や広州地域と比較しても4~5分の1と、非常に安価ではあるが、2人がかりで取り組んでいるなど、全体的な効率を考慮すると、まだまだ中国に分があると言えるだろう。

経済発展がもたらす「脱中国」

 また、物流コストの面でも、「インドやバングラデシュからの日本への航路は限られているため、輸送料がかえって高くついてしまうこともある」(良品計画広報担当者)という声もあり、これも中国から生産拠点を一気にシフトできない一因となっている。ちなみに中国に4年間駐在していた東レの社員によると、「駐在している間も、どんどん高速道路網が発展していった」というように、国内のインフラ整備も急速に進んできたと思われる。

 しかし、それでも、「一国依存の状態では生産量に限界があり、他国への輸出分をまかなえない可能性があるため、複数の国で生産する必要があるのです」(ファーストリテイリング広報担当者)と、同社は生産拠点の分散を図る。また、平均所得が上がれば内販の需要も高まるため、「注文の細かい日本への輸出品よりも、(中国)国内向けのものの方が生産しやすいという現地の声もある」(某衣料品メーカー広報担当者)ということからも、アパレルメーカーは日本の消費者向け製品の生産拠点を少しずつ移さざるを得ないようだ。

 また、中国に拠点を移した当初は、改革開放経済の推進で日本企業が活動しやすく、最初の2年間は法人税が免除されるなどといった優遇策もふんだんにあったのだが、それらも年々減ってきているという。軽工業は、国の発展の初期段階では力を入れるが、先進国の多くがそうであるように、やがては重工業中心へシフトしていく。中国の経済の発展によって、縫製拠点が外へ移るのは自然なことなのかもしれない。

このように、カントリーリスクもさることながら、経済的な発展による多くの理由によって、日本の衣料品の縫製拠点は中国から少しずつシフトしつつある。しかし、現時点では、人件費、物流コスト、インフラ整備、そして技術力などを含めた総合力で、中国に勝る国はないように思われる。ならば『チャイナ・プラス・ワン』を成功させるためにはどうすればよいか。

「打ち出の小槌」の中国からの脱却

 「一般的に、中国から第三国へ生産工場を移すときは、まずつくりがシンプルで納期がタイトでなく、コストが下げられる点でも利益が大きい、『大量生産』が可能なものから始める場合が多いと思います」。

 ある総合商社の繊維部門担当者がこう語った。「中国で何十年かけてやってきたことを、急に別の国で同じレベルまで到達するのはもちろん不可能。それでも、すべてを満たしてくれる『打ち出の小槌』であった中国に依存し続けるわけにはいかない時期にきている」と、まずは現段階でできることから取り組んでいる様子を教えてくれた。


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