オトナの教養 週末の一冊

2017年11月24日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 歌手のマライア・キャリーが、肥満治療のために胃の縮小手術を受けたという記事を目にした。マライアに限らず、さまざまなダイエットを繰り返しても効果がない、と悩む現代人は少なくない。

『人はなぜ太りやすいのか 肥満の進化生物学』(マイケル・L・パワー,ジェイ・シュルキン 著、山本太郎 翻訳、みすず書房

 いまや肥満は、世界の主要な健康問題のひとつである。体重を身長の2乗で割るボディマス指数(BMI)で評価すると、世界には13億人以上の肥満または過剰体重者が存在する。世界人口の5人に1人が、肥満あるいは過剰体重ということになる。

 肥満の流行は急速に広がりつつある、と著者らは警告する。感染症に限らず、「ある健康関連事象が明らかに正常な期待値を超えて起こる」ことを「エピデミック(流行)」と定義すれば、過去25年間の肥満の増加はエピデミックに相当する、というわけだ。

 著者のマイケル・L・パワーは、アメリカ産科婦人科学会上級研究員で、スミソニアン国立動物園所属動物科学者。もう1人の著者ジェイ・シュルキンは、アメリカ産科婦人科学会研究部長で、ワシントン大学産科婦人科学部客員教授、ジョージタウン大学神経科学学部特任教授を務める。

 2人がタッグを組み、進化生物学的視点から、「現代人を肥満にさせるような生理現象と行動の、進化的、適応的起源」を探ったのが、本書である。

正常体重の人の割合が歴史上最も低い米国

 まず驚いたのは、米国の状況。肥満が増えていると聞いてはいたが、1980年以降、体重の最高値は常に更新され、正常体重の米国人の割合は現在、歴史上最も低いという。BMIが40を超える人は1200万人。うち半数は50を超える。70を超える米国人は100万人に達した。

 「最も心配なことは、こうした現象が子どもたちの間でも見られること」だという。1960年から2000年の間に、過剰体重の子どもの割合は3.4倍、極度の肥満の子どもの割合は7.8倍に増えた。「米国における肥満割合が将来的に減る兆しはない」と、著者らはみる。

 とはいえ、米国が世界1というわけではない。南太平洋9カ国では肥満の発生頻度が急上昇し、世界で最も高い肥満割合になった。たとえばナウルでは、70%以上の人が肥満に分類され、40%の人が(生活習慣病である)Ⅱ型糖尿病と診断されている。

 ヨーロッパにおける肥満割合も米国に近づきつつある。アフリカにおける肥満者の割合は、女性で上がっている。

 アジアでは、白人に用いられるBMIによれば肥満や過剰体重は米国より少ないが、肥満に関連する疾病リスクは白人より高いので、Ⅱ型糖尿病の有病率は米国と同じか、それより高くなっている。

 肥満は、心血管系疾患や糖尿病など、さまざまな病気の発症リスクを上げるのみならず、生活や社会インフラ、交通機関などの安全性にも影響を与えていると、著者らは指摘する。

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