オトナの教養 週末の一冊

2017年11月24日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

脳の発達のために
赤子は脂肪を豊富に蓄えて生まれてくる

 なぜ過去25年間に、肥満や過剰体重の人の割合が劇的に増えたのか?

 著者らは、「私たちの遠い昔の祖先」、つまり人類の起源にまでさかのぼって、その理由を多角的に検証する。

 多くの専門家が指摘しているように、著者らも、ヒトの肥満化傾向の背景にある進化の推進力として、飢餓時における生存に焦点を当てる。

 食物を確保するのに身体的努力を要し、食物不足が一般的だった過去の状況への適応的反応と、エネルギー密度の高い食物が大量に容易に得られる現代の状況とのミスマッチの結果、脂肪が過剰に蓄えられる、というものだ。

 本書が面白いのは、従来のミスマッチ説から一歩踏みこんでいる点だ。「過去の飢餓はヒトの肥満化傾向への選択圧としては不十分」と考える著者らは、「恒常的な食の不確実性は、女性の妊娠と生殖に影響を与え、女性が脂肪を蓄えることを適応上有利とした」と説く。

 進化の過程で大型化した脳を支えたのが脂肪だったこと、脳の発達のために赤子が脂肪を豊富に蓄えて生まれてくることも、太りやすさの背景にあるという。ヒトの赤子の脂肪の多さは、他の哺乳類に比べて突出しているそうである。

 <新生児と妊婦の脂肪量の増加は、出生後に脳が成長する時期をもつ児を産むための選択の結果として起こった可能性が高い。別の言葉でいえば、大きな脳はヒトが脂肪を蓄積することへの選択圧となったし、脂肪を蓄積する能力が過去には不可能だったレベルを超えて発揮されることを可能にするような環境を、その大きな脳がつくり出したのである。>

 <価値はあるもののコストの高い大きな脳をつくり、維持することが、ヒトの嗜好を決定づけてきた。一方、技術や知識によって食物へのアクセスが向上し、生きるための身体活動が少なくて済むようになった今、そのような嗜好が私たちを肥満しやすくさせている。>

 さまざまな意味で、「ヒトの肥満は大きな脳のせい」ということができるのである。

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