2024年4月21日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2017年11月22日

――都心回帰の他に、東京23区での人口増加の特徴はありますか?

池田:年齢別に見ると、20代前半を中心に、10代後半から20代の転入超過が23区では見られます。しかし、この若者たちが結婚し、子どもが生まれファミリー層になると区外に転出してしまう。23区内に、若いうちから結婚時まで住んでいても、出産、子育てを通じて、より広い家が必要になるため、家賃が安い郊外へ引っ越すパターンが多い。特に、長子が就学するタイミングで、親としては子供部屋を持たせたいと考えますからね。

 多くの区では結婚や出産後も、区内にとどまってもらうようさまざまな取り組みを行なっています。一例をあげると、中野区は子どもの減少が顕著でした。そこで、同区では行政が地元の不動産団体等と連携して、ライフステージに応じた住み替え相談を実施しています。

――子育てをしやすい環境があれば、他の地域に引っ越すのも少なくなるのかなと思います。

池田:たとえば、荒川区は、もともと工場の街で女性が働いていることが多かったこともあり、未就学児童に占める保育園児の数が23区内で一番多い。保育所が地域に溶け込み、単なる福祉施設から総合的な子育て支援施設へと転換し、地域コミュニティのつなぎ役として機能しているんです。また、首都直下型地震が起きた際に甚大な被害が予想される荒川区では、「災害時地域貢献建築物」という認定制度を設け、災害時などに一時的に避難する建物を認定している。そうなると、日頃から地域と連携を深めておかなければならないので、子どものいない夫婦や単身者でも地域と関わりを持つ仕組みがある。

――他の区では、子育てに関しどんな政策をとっているのでしょうか?

池田:江戸川区は、東京都が出生率を公表して以来、20年間トップの座を守ってきた区です。江戸川区の子育ての特徴としては、家族主義が根強く残っている点です。江戸川区はその特徴を活かし、1969年に「保育ママ」制度(編注:保育ママ制度は、保育園などに預けるのではなく、区の認定を受けた保育ママが、自宅などの家庭的環境のなかで保育する制度)を導入します。15年以降は、地域型保育事業のひとつとして、認可保育サービスに組み込まれ、他の区でも「保育ママ」制度は活用されています。

 また、近年湾岸エリアである豊洲などの開発が進み、子どもが急増している江東区の豊洲地区では、一定規模以上のマンション建設時に「公共施設整備協力金」の拠出をデベロッパーに求めています。まだまだ空いた土地が多く、また大手のデベロッパーが多いため、この協力金で急増する子どものために保育所や小学校の建設が進んでいますが、以前からの住宅地である内陸部との保育格差が生まれているのも現状です。

 ただ、江東区では11年から「マイ保育園登録制度」という画期的なシステムを導入しました。これは、就学前の子どもを家庭で育てている区民なら、区内の保育園のいわばバーチャル園児になることで、園庭で遊んだり、保育士や栄養士、看護師への子育て相談や身体測定などのサービスを受けられるというものです。実際に、子どもを保育園に預けていなくてもこのようなサービスを受けられるのは画期的ですね。

――こうした各区が、ざまざまな施策を打てるのは、やはり財政的に豊かなことが大きいのでしょうか?

池田:23区に関しては、どの区も財施的にゆとりがあります。23区では中学生までの医療費を自治体が助成するので無料です。これを地方で行おうとしても、仮に現在は可能だとしても将来的には持続可能ではない。

 また、23区は、それぞれの歴史があり成立していることから、その特徴を活かした施策を取っています。

 ただし、東京23区はかつて30年間にわたり人口が減少し、課題を克服してきた経験を持っている。現在、地方にも、同じような課題に取り組んでいる自治体は多いですから、東京23区のそれぞれの取組を参考にしていただけると嬉しいですね。
 

  
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