世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月29日

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 今回のイラク・クルド自治政府(KRG)による独立に関する住民投票の強行、その後の中央政府との対立の動きについてはKRG指導者(特にバルザニKRG大統領)が如何なる意図、見通しに基づき取り進めたのか不明なところがあり、今後イラク国内及び地域の情勢がどのように展開するのか、なかなか読み難いところがあります。

 これまでクルド政党はイラクの国内政治おいてシーア、スンニ間において多くの場合、仲介者として行動するなど建設的な役割を担ってきましたが、最近では中央政府との太いパイプ、人脈を有する有力政治家(最近死去したタラバーニ元大統領、ズィバーリー元外相等)を失い、中央政府の出方を見誤った可能性があります。KRG指導部は独立に向けて中央政府との交渉を始めたいと考えていますが、KRG内部においてもどう交渉を進めるかについて統一した明確な意思、戦略が存在しません。

 中央政府側は、クルド独立反対の国際的な支持もあり、KRGに対しては強い態度で臨んでいく可能性が大きいです。特にアバディ首相は来春の国政選挙を控え、下手な妥協は自らの政治基盤を弱め再選の可能性を少なくすることから、独立を前提とした交渉は一切拒否することになるでしょう。

 但し、クルドをイラク政治から完全に排除することは中央政府の正統性を減じ、国家分裂の危機を招来させることになるので一定の歩み寄り(特に経済分野において)の可能性はあります。今回のキルクーク攻防においてクルド側が特段の抵抗はせずに自主的に撤退したことを見ても、双方共に決定的な軍事衝突は望んでおらず、何らかの暫定的な共存の方策を見出すことになるのでしょう。

 シーア派とスンニ派との間の一種の緩衝剤としてのクルドを失ったイラク政治は混迷を深めていく可能性が大きいです。また、トルコ、イラン、サウジなどの周辺諸国による介入の度合いが強まり、これも地域の不安定性を強めることになるでしょう。

  
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