古都を感じる 奈良コレクション

2010年11月2日

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西山 厚 (にしやま・あつし)

帝塚山大学教授、前奈良国立博物館学芸部長

帝塚山大学文学部文化創造学科教授。前奈良国立博物館学芸部長。徳島県鳴門市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。奈良国立博物館では「女性と仏教」など数々の特別展を企画。主な著書に『仏教発見!』(講談社現代新書)、『僧侶の書』(至文堂)など。日本の歴史・思想・文学・美術を総合的に見つめ、書き、生きた言葉で語る活動を続けている。

 先日、東大寺大仏殿の廻廊で、大仏さまにラブレターを書こうという催しがおこなわれた。

 中学生から大学生までの50人が集まり、書家の紫舟〔ししゅう〕さんの指導のもと、筆を手に、思い思いのラブレターを書き上げた。私も見せていただいたが、ある作品に目を奪われた。

生老病死〔しょうろうびょうし〕
全て隣に
あなたがいる
いてくれる

 人は生まれ、老い、病み、そして死んでいく。ただひとりの例外もない。

 そのいずれの時にも、大仏さまはそばにいて、やさしく見守ってくれている。右手をあげ、「だいじょうぶ、心配しなくていい、だいじょうぶ」と語りかけてくれている。

 しかし、大仏さま自身も、奈良時代からずっと平穏無事な日々を過ごしていたわけではない。

 平安時代の終わりと戦国時代には、焼かれて溶けてしまったことがある。いずれの時にも復興されたが、大仏さまは奈良時代・鎌倉時代・戦国時代・江戸時代のパーツが接がれた状態になっている。

 もしかしたら、みんなをやさしく見守ってくれている大仏さまが、一番傷ついているのかもしれない。

 一番傷ついている人が一番やさしい。一番やさしい人が一番傷ついている。そういうことは、私たちの周囲でもありがちなことだ。

 この文章は、大仏さまへの最高のラブレターだと思う。

 これを書いた高校三年生に逢うことができた。利発そうな眼をした小柄な女の子で、「あんな素晴らしい言葉をよく書けたね」と声をかけたら、ふと浮かんだのだと恥ずかしそうに答える。

 きっとそういう家庭に育ったのだろう。

 全国から送られてきた408点の作品のなかにも気に入ったものがあった。

見つめられて
ドキドキ
奈良の
大仏

 

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