田部康喜のTV読本

2017年11月24日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 映画「赤ひげ」では、座敷牢に入れられていた娘役を香川京子が演じている。保本を油断させて抱きつき、眼差しが一瞬にして狂気に変わるシーンは印象的である。ドラマの宮澤美保も迫真の演技だった。

 香川京子をはじめとして、映画のわき役陣の演技はそれぞれの代表作ともいえる。ドラマの出演者たちは、映画を意識していることだろう。ただ、演じる者も観るものも、山本周五郎文学を堪能できればそれでよいのだろう。インターミッションが入っても計185分。連続ドラマは、その時間を超える。映画は映画、ドラマはドラマと割り切って、それぞれの余韻を楽しみたい。

三船敏郎を彷彿とさせる船越英一郎の好演

 第3話「最期の告白」(11月17日)は、大工の佐八(鶴見辰吾)と妻のおなか(宮本真希)の物語である。佐八は、おなかが働いている居酒屋に通いつめて、おなかと結婚する。幸せな日々が2年余り続いた。おなかには、佐八に言わないでいる秘密があった。佐八がいくらおなかの親に会わせてくれるように頼んでも、首を横に振るばかりだった。

 大地震と火災で佐八の長屋は焼け出される。おなかの遺体が見つからなかったので、佐八は望みをつなぐが、年月は流れる。佐八は赤ん坊を背負ったおなかに出会う。佐八はおなかを慮って、これまで姿を消していた理由を聞かないままに、別れる。

 ある夜、おなかが佐八の長屋を訪ねてくる。親方に居所を聞いたのである。おなかが物語る、大地震の日に姿を消した理由は、親が恩義をうけた許嫁がいたが佐八を選んだ、しかし、地震後に歩き回るうちに、その許嫁のうちの前に立っていた、というのである。

 「これからは、あなたのところにいる。しっかりと抱いて」と、おなかはいう。

 抱きしめた瞬間に、おなかが腹に短刀をあてて、突き刺さった。おなかは死んだのである。

 佐八は、長屋のなかで、「神か仏か」という好人物として知られていた。自分で稼いだ金を惜しげもなく、隣人に与えていたのである。

 結核のために、死の床についた佐八は、床をとりまく長屋の人たちと、保本(中村)に向かって、おなかを結果として殺してしまったことを告白する。おなかを長屋の自分の部屋の裏に埋めて、仕事場を作り、稼いだ金でおなかを供養していたというのである。

 「これで安心して、おなかのところに逝ける。おなか……きれいだよ……」

 佐八の視線の向こうには、おなかが立っているのだった。

 保本役の中村蒼は、弱々しい印象をもって登場したが、患者たちの内面の苦悩と荘厳な死に直面しながら、医師として徐々に力強さを感じさせる演技が好感を呼ぶ。赤ひげ役の船越英一郎も、三船敏郎を彷彿(ほうふつ)とさせて好演である。
 

  
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