2024年4月16日(火)

古都を感じる 奈良コレクション

2010年11月2日

 作者は高校一年の女の子。見つめられてドキドキしているのは彼女だけではない。たくさんの人たちから見つめられて、大仏さまもドキドキしているかもしれない。

 この作品は格別にうまいというわけではない。だからいい。一生懸命さが伝わってくるのがいい。それがこの内容にぴったりくる。何年かたったら、きっと彼女はもっとうまくなってしまい、書と内容が合わなくなるだろう。もしかしたら、大仏殿に入ってドキドキすることもなくなっていくかもしれない。だから、この作品は、今しか書けない。青春の一時期の、今しか書けない、かけがえのない作品だと思う。

 この作品は、入選はしたが、特別賞の6点には入っていなかった。私は選考委員ではなかったけれど、そんなことをついつい熱く語ったところ、何日かして、奈良県文化会館での入選作の展示を見に行ったら、この作品の下に「西山厚賞」と書かれたきれいな紙が貼ってあったので驚いた。

 大仏さまへのラブレターを審査するのなら、審査委員長は大仏さまでなければならない。大仏さまに代わって審査するのなら、大仏さまが一番喜ぶ作品を選ぶべきだと私は思う。

 「見つめられて/ドキドキ/奈良の/大仏」

 大仏さまは、この作品を一番気に入っただろうなと思った。

 大仏殿の前には八角形の大きな燈籠〔とうろう〕が立っている。

 仏様には香・華・燈をお供えするのがよいと言われる。香りと華と明かり。お寺の建物の前に燈籠を立てるのは、明かりを供えるためである。

 この八角燈籠は奈良時代に製作されたもので、火袋〔ひぶくろ〕の羽目板〔はめいた〕には、楽器を演奏する四人の菩薩が表わされている。

 音声菩薩〔おんじょうぼさつ〕とよばれるその4人が奏でているのは、横笛、尺八、鈸子〔ばっし〕、笙。この燈籠の制作を企画し、音声菩薩を造らせたプロデューサーの脳裏には、この4つの楽器を使った音楽が流れていたはずだ。

 人間の耳には聞こえないけれど、大仏さまにはいつもその音楽が聞こえているに違いない。この八角燈籠は、明かりだけではなく、大仏さまに音楽も捧げているのである。

 きっと大仏さまは音楽が好きなのだと思う。


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