足立倫行のプレミアムエッセイ

2017年11月30日

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足立倫行 (あだち・のりゆき)

ノンフィクションライター

早大政経学部中退後、週刊誌記者などを経てノンフィクション作家に。近著に『血脈の日本古代史』(ベスト新書)『倭人伝、古事記の正体』(朝日新書)。

「本当のところ」に照準を合わせる

 金子は常に、とても低い視点から世の中を見詰め、人々を見詰め、自分を見詰めた。

 ただし、だからといって妥協はしない。「本当のところ」に照準を合わせていた。

 どこの馬の骨ともわからぬ自分の絵を(時折)買ってくれるので、行く先々の日本人に感謝はしていたが、評価はしていなかった。

 例えば『ねむれ巴里』では次の如く記す。

 「大正のリベラリズムをくぐっていない旧日本人の彼らの多くは、お国の繁栄、富国強兵の」徒輩である、と。

 「大概、もう一度世界の大乱があって、死の商人としての日本人が花を咲かせることより他に活路はないという意見をもっていた。そういう意見に盾をつくことは、じぶんの首をしばることと同じ、おとなげない、無益なわざであったので、終始じぶんを殺し、話を合わせてゆかねばならない。息苦しいことにちがいない」

 それでは、政治的意見を封印していた金子の旅行中の最大の関心事は何だったのか? たぶん最愛の女性、パリで自分をまっているはずの妻、森三千代の胸中だったはず。

〈女のいふことばは、
いかなることもゆるすべし。
女のしでかしたあやまちに
さまで心をさゆるなかれ。

女のうそ、女のきまぐれ、放埓は
女のきものの花どりのように
それはみな、女のあやなれば、
ほめはやしつつながむべきもの。〉
(『女たちへのエレジー』)

 私にも、金子とは比べものにならないが、海外を旅しながらの三角関係の体験があり、バトゥパハ滞在中に何度か記憶が甦った。

 中国人の経営する飲食店でコーヒーを飲んでいると、ヤモリが2匹、天井を走った。

 金子はそれを、舌打ちしながら牡ヤモリが牝ヤモリを追っている、と見たのだが。

  

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