世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月8日

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 IS後の中東の安定についてのこの論説の見方は甘すぎるように思われます。

 シリアの内戦が終結すれば中東の開発のための歴史的な投資の機会が生まれる、と言っていますが、「中東版マーシャル計画」の実施には安定が前提となります。

 ところが、まずシリアについては、米国等はアサドの支配の及ばない地域を確保し、事実上シリアの分割統治を実施すべきであると言っています。結論としてそれ以外にないのでしょうが、アサドが簡単に受け入れるとは考えられません。ロシアがどう出るかにもよりますが、熾烈な陣取り合戦が繰り広げられる恐れもあります。

 イラクについては、スンニ派を如何に受け入れるかの問題の他に、クルド自治区の問題があります。イラク政府は強気で、キルクーク地帯を占拠したりしていますが、クルド自治区とイラク中央政府との対立から目が離せません。

 イエメンについては、論説は「合言葉は妥協だ」と言いますが、イエメン作戦を遂行しているムハンマド皇太子に妥協の気配は見えません。泥沼の紛争は当分続きそうです。

 これら問題国の事情のほかに、サウジとイランの対立が大きな不安定要因として存在します。サウジとイランは中東での熾烈な主導権争いをしています。問題国についても、シリアではイランがアサド、サウジが反アサドを支持し、イラクではイランがクルド自治区を支援しています。イエメン内戦にムハンマド皇太子が介入した主な理由は、イエメンの反体制派をイランが支援しているためと見られています。

 サウジとイランの対立は、トランプの政策により一層先鋭化しているようです。トランプはイエメン作戦を含めてサウジを全面支援する一方で、イランを厳しく非難しています。先般トランプ政権はイランによる核合意の遵守は認定できないと発表しました。イランに対する制裁を強化するようなことになれば、イランは反発し、緊張が高まる恐れがあります。

 トランプ政権は、シリア、イラク情勢に取り組むとともに、サウジに対しては無条件支持を再考慮して、例えばイエメンでの妥協の模索を助言すべきです。他方、イランに対する無条件批判は止め、イラクへのイランの影響力に如何に歯止めをかけるかなどにつき、イランとの一定の関与を考えるべきでしょう。

 ISがシリア、イラクから事実上放逐されたことは歓迎すべきですが、残念ながら中東情勢は安定からは程遠く、「中東版マーシャル計画」実施の機は熟しているとは言えません。

  
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