2024年4月16日(火)

古希バックパッカー海外放浪記

2017年12月3日

イスラエルの失業問題

レーの町のシンボルである王宮

 8月23日。ドイツのハンブルクから来た男女4人とイスラエル男子とディナーで一緒になった。ドイツ組は仕事仲間で社会福祉士(Social Worker)。ドイツでは社会福祉士の地位や給料が低いと嘆いた。1人は1年の予定で長期休暇中、専門は失業対策・職業訓練。女子は障害者(handicapped)対策専門。

 ドイツの人口8600万人。将来1人の就業者が2人の老人を支える超高齢化社会となる。他方で移民受入コスト負担も重いと4人は悲観。

 イスラエル人のダンは兵役でスナイパー訓練を受けたが実業で役立つスキルは何もないので母国で良い仕事(quality job)に就けないと悲観的。「医者、弁護士、技術者以外は良い仕事を得るのは困難だ。でも幸いにもイスラエルはユダヤ人以外の移民は受け入れないので、比較的グローバリズムの影響はない。南欧の若者よりは恵まれているよ」とダンは分析。イスラエルの若者でも、一人なら自国の問題について発言するようだ。

「リーユル」ゲストハウスの邦人宿泊者たち。全員一人旅

イスラエルの国土は飽和状態?

 9月1日。マナリー郊外のヴァシュシトのゲストハウス。イスラエルから来たユダヤ人青年ニールと歓談。ニールは23歳で2年前に兵役を終了。軍隊では衛生兵(medic)として勤務。「イスラエル軍は現在では実際の戦闘での死亡・負傷はそれほど多くない。むしろ問題なのは基地内や訓練中の事故が多い。管理体制や規律の緩みが背景にある」と批判した。

レーのゲストハウス「リーユル」はフレンドリーな家族経営

 ニールは「人口問題によりイスラエルの安全保障が危うくなる」と危機感を募らせていた。狭い国土に過去20年の間にロシア、フランス、イエメンなどから大量の移民が押し寄せて数年後には人口が900万人を超えると懸念。(注)統計をみると1997年には580万人の人口が20年後の2017年には860万人。20年間で280万人増加。

 「イスラエルの集団農場システム“キブツ”は現在でも共同体として機能しているが、集団農場は国境付近まで拡大している。急激な人口増を受容するだけの生活圏を確保するために国土(入植地)拡大に向かって政治的圧力が高まってゆく。当然、軍事的緊張をもたらす。急激な人口増のため住宅価格が上昇、さらに食料品など生活必需品も軒並み上昇し、日本並みの物価水準になってしまった。これからも欧州での反ユダヤ主義や中東不安など様々な理由で在外ユダヤ人が安住の地を求める動きが加速する。人口問題は悪化する一方だ。同時に周辺国との摩擦は激化してゆく。安住の地を求める在外ユダヤ人の移住が、皮肉なことにイスラエルを不安定にしてしまう」とニールは分析。

レーの町は高い糸杉が独特の景観を作っている。糸杉は真直ぐな木材として重宝されて伝統家屋に多用されている

人口問題解決への提言

 「イスラエルを安定した平和国家として存続させるためには、在外ユダヤ人のイスラエルへの移住を大幅に制限するしかない。代わりにイスラエルへの移住を希望する在外ユダヤ人を米国が受け入れるのが最善の解決策だ。米国ではユダヤ人社会は強力な政治力を持っておりイスラエルに移住するよりも幸せに暮らせる」と熱く持論を語った。

 ニールのお陰でイスラエルという国の有様が少し理解できたと思った。

→第19回に続く

  

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