イノベーションの風を読む

2017年12月7日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 あなたが最寄駅に到着したことをGPSで検知して自宅のエアコンや照明をオンにしたり、外出を検知すると家電の電源をオフにしたりする……家電メーカーや、最近では携帯キャリアまでが、スマートホームという構想や、それに基づいた製品やサービスを発表しています。しかし、あなたは、こんなことが本当に必要だと思いますか?

(golubovy/iStock)

 似たようなことは、もうずいぶん前からできるようになっています。もちろん、スマートフォンやインターネットの普及、各種のセンサーやAIなどの技術の進歩によって、少しは実用的になっているのかもしれません。しかし、そのコンセプトはかなり古いものです。環境や技術が大きく変化したにもかかわらず、「家電がインターネットに繋がったら……」という15~20年前の発想から何も進歩していません。

 3月に経済産業省が、『スマートホームにおける現状と将来像の実現に向けた検討の方向性について』という資料を公開しました。そこでは、「IoT・ビッグデータ・AI等のITの技術革新により、実世界から得られたデータを分析・解析し、その結果を再び実世界にフィードバックする社会が現実になりつつあり、データを核としたビジネスモデルの革新が従来の産業の垣根を越えて生じることが予想されている」そして、「ビジネスモデルの革新が予想される有力分野の一つにスマートハウスが挙げられている」と解説されています。

 生活者にとって、スマートホームというものは、どのような価値があるのでしょうか。資料を読み解いてみました。

スマートホームとは何か?

 スマートホームとは、要するに「IoTによってデータを収集して解析することによって、何らかの価値を現実社会へ還元する」ことのようです。元々、「家電製品・住宅設備機器をネットワークに接続したスマートハウス」というものだったようですが、「家庭内データの利活用により、生活空間(暮らし)をカスタマイズ可能となる将来の状態をスマートホームと呼称する」ことにしたそうです。そしてスマートホームの将来像として、「エネルギー消費の見える化」と「家電のOn/Off」、そして「生活空間のカスタマイズ」と「製品ライフサイクルの改善」が挙げられており、特に、後ろの2項目は「革新的なサービス」とされています。

 「スマートホームを構成する家庭内機器の進化は、機器単体の高機能化から機器のネットワーク化のフェーズに移行している段階で、機器のネットワーク化が進行することによって、他の製品・サービスとの連携による高度化から、プラットフォームへの情報集約とデータのマルチユースへと更なる進化が見込まれる」

 連携も情報集約もデータの利用も、生活者に「何らかの価値を還元する」あるいは「革新的なサービスを提供する」ために行うことのはずですが、この資料には、それらについての具体的な説明はありません。そして、革新的なサービスが創出されれば、「社会課題の解決」と「事業者や個人のニーズの充足」が期待されると、一気に飛躍してしまっています。

 解決が期待される(国内限定の)社会問題の例として、「在宅介護の高度化」「女性の社会進出のための生活支援」「家電のリコール対策や廃家電のルート適正化」、そして「徹底した省エネ」が挙げられています。

 「消費者情報や機器稼働状況の分析によって、消費者ニーズに合致した製品開発が可能になる(事業者ニーズの充足)」という勘違いはさて置き、もっとも肝心な、充足される個人のニーズに対しては、「外出先から自宅の状況把握や家電製品の自動制御による快適な生活の実現」という、「家電のOn/Off」レベルのことしか示されていません。

 スマートホームの将来像の実現に向けての課題は、機器のIoT化とユースケース創出の関係が「鶏と卵」状態にあることだそうです。ユースケースがないため、機器の課題解決が進まない、そして、機器の課題が解決しないため、 ユースケースの創出が進まない。これでは、革新的な製品やサービスを創出できるはずがありません。

 ユースケースとは、「現実社会へ還元する価値」「革新的なサービス」「個人のニーズ」そして「生活空間のカスタマイズ」などと同じことを意味しており、その抽象的な表現をもう一つ増やしただけです。

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