イノベーションの風を読む

2017年12月7日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

将来像の実現に向けた検討

 経産省の資料は、次のような「スマートホームにおける現状と将来像の実現に向けた検討」の実証実験の狙いを説明するためのものです。

  • 平成28年度補正予算を活用し、実際に人が生活する住居(50〜100世帯)において、複数の機器(例えば、エアコン・ 冷蔵庫・鍵/セキュリティ・その他家電のOn/Offや付随サービスなど)と複数種類のサービス(音楽配信等のサービスと、エネルギーマネジメントなどの機器関連サービスなど)を一つのプラットフォーム上で操作・確認できる環境を整備(複数種類のUIを準備し、どの機器・サービスもすべてのUI上で操作・確認可能な環境を整備)
  • 上記環境を前提とした場合のセキュリティ・プライバシー・製品安全上の課題、接続方法について検証を行う

 そして、実際に大手シンクタンクに「スマートホームに関するデータ活用環境整備推進事業」を委託し、さらにそこから、家庭内の機器のネットワーク化や、それによる新たなビジネス創出に必要となる事業環境の整備を目的とする「スマートホームに関するデータ活用環境整備実証事業」が、不動産・住宅デベロッパー2社と電機メーカー1社に委託されています。

 それぞれが、「戸建て住宅実証」「集合住宅実証」「サービスとUI、機器とサービス連携実証」というコンソーシアムを形成し、そこに他の電機メーカーなどが参加して、それが日本のスマートホームの将来像をつくる取り組みになっているようです。5月に開催された第1回事業環境構築検討会で、『スマートホーム検討資料』が公開されています。

 経産省では、平成26年度から平成27年度までの2年間で40.3億円の予算を計上して、「大規模HEMS情報基盤整備事業」というものを実施しました。HEMS(ヘムス)とは、ホームエネルギーマネジメントシステムの略で、エアコンや照明、家電などをネットワークにつないで、スマートホームの将来像としても再掲されている「エネルギー消費の見える化」や「家電のOn/Off」などを可能にするシステムです。

 「2030年度までに全世帯(5000万世帯)へのHEMSの導入を目指す」として、「情報基盤の構築」「電力データの提供」「プライバシールールの整備 」「新サービスの創出」をテーマに実施されましたが、『スマートホーム検討資料』では、「新サービスの創出」については「課金に耐えうるサービスは少なく、ビジネスモデルの創出には至らず」と報告されています。

 1万4000世帯のモニター宅にHEMSを導入して、電力データの一元的なクラウド管理を1年間運用し、「HEMSデータを取得するAPI標準仕様書」と「HEMSデータ取扱マニュアルα版」を策定したことが成果だということです。

 「実際にネットワークに接続されている機器の数が増えていかない」「実サービスの拡大につながっていない」「サービス事業者が増えていかない」「認知度が低い」などの課題が列挙されています。すでに、HEMSで可能になる程度のことでは、最終的にコストを負担する生活者の関心を高めることはできないということは実証されたはずです。

 スマートホームがHEMSと違うところは、「IoTによってデータを収集して解析する」ことのようですが、それによって、どのような革新的なサービスを提供できるのかを明確にしないまま、技術やビジネスモデルやセキュリティー、プライバシーの保護などの議論を、いくら繰り返しても無意味ではないでしょうか。日本の家電メーカーが、こんなことにかまけている余裕はないはずです。

 『スマートホーム検討資料』には、「スマートフォン以外にも、GoogleやAmazon等が音声アシスタントデバイス(HomeやAmazon Echo)を介して、家庭内のコントロールタワーを巡る争いに参入している」と書かれています。日本市場だけを見ていると、そのような(参入という)表現になってしまうのでしょう。「同業他社や異業種間で機器・サービスのリアルデータを集約・共有・分析することが可能となる環境を整備する」とか「情報銀行などのデータビジネス市場の創出」とか、少し浮世離れした「日本の強みを活かした政策の方向性」も示されています。

 アマゾンやグーグルがクラウド上の音声アシスタント(AlexaやGoogle Assistant)で収集したデータは公開されていません。ユーザーの行動や音声アシスタントとの会話はアマゾンやグーグルに吸い上げられるだけなので、それらの音声アシスタントに対応したスピーカーなどの、デバイスのメーカーがデータを蓄積することはできません。クラウドから音声アシスタントのユーザーにサービスを提供する事業者にも、ユーザーの命令を音声アシスタントが解釈した結果が送られてくるだけです。

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