2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月15日

 この社説は、今回のアジア旅行中の南シナ海問題についてのトランプの発言を高く評価していますが、評価しすぎではないかと思われます。

 11月16日に発表された、11月13日のASEAN首脳会議の議長声明では、中国の南シナ海での行動に対して、2014年以来示されてきた「深刻な懸念」や「引き続く懸念」の言葉がなくなり、「南シナ海をめぐる中国との関係改善に留意」したということになっています。

 議長国フィリピンのドゥテルテ大統領が12日、南シナ海を大きな問題にしないと言っていたので、予想された結果ともいえますが、ここまで後退されると驚きを禁じ得ません。この決定はASEANの決定であり、日米が了承したものではありませんが、遺憾な声明です。

 この社説で、トランプ大統領がベトナム国家主席に、中国とその他の紛争当事国との仲介役を申し出たことは中国の反発を買い、東南アジア諸国は静かに歓迎したという一節がありますが、この判断は間違っています。

 米国が仲介役になるということは、要するに、たとえば中国とベトナムの中間で解決案を提示するということになり、ベトナム側の立場を全面支援するということにはなりません。米国のこうした態度への幻滅が、「米国は頼れない、中国とうまくやるしかない」との判断になり、この議長声明になったのではないかと思われます。

 さらに言うと、航行の自由の問題は領有権問題と異なり、この海域を利用する諸国全体の問題、関心事項であり、二国間問題として仲介になじむような問題ではありません。米国としても、米国自身の問題として考えるべき問題です。すでに国際的に判決も出ています。

 中国の埋め立て、人工島の軍事基地化は、今後進んでいくでしょう。トランプの今回の仲介申し出は、関係国との二国間の問題としてこれを処理し、他の国の容喙(ようかい)は認めないとの中国の立場を容認していく結果をもたらしかねません。

 日本としては、今回の件を踏まえ、米国とも一緒になって、この問題を正しい軌道に戻していく努力を今後していく必要があります。「法の支配」を強調してきた立場からしても、当然そうすべきでしょう。

  
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