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2017年12月5日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

JR・ヒルデブランド選手
 

 11月末から開催されたLAオートショーの記者会見の場では様々な立場からの自動運転、コネクテッドカーについての検証が行われた。その中で興味深かったのは「もし将来自動運転が強制化され人が自分で車を運転することがなくなったとしたら、人に残されるのはどの分野か。オートレース、VR、あるいはゲーム上などに限られてしまうのか」というパネルディスカッションだった。そこにパネリストの1人として登場したのがインディカーの人気レーサー、JR・ヒルデブランド選手だ。

 インディは昨年日本の佐藤琢磨選手が初優勝を飾ったことで日本でも注目度の高いレースの一つだろう。ヒルデブランド選手は2010年にインディシリーズにデビュー、2011年にはフル参戦した最初の年にルーキー優勝という偉業を成し遂げる寸前にクラッシュして2位に終わった。現在のランキングは15位だが、「キャプテン・アメリカ」というニックネームを持ち非常に人気のある選手の1人だ。

 ヒルデブランド選手の経歴がまたすごい。14歳でカートレースにデビュー、ほぼ負けなしで2003年から本格的な4輪選手権に出場、そこでも勝ち続け、米国でレーサーの育成のために用意された様々なスカラーシップを受けて次々に上のクラスに進み、2010年にはアメリカン・ル・マンシリーズにも挑戦、2011年からインディシリーズ、というまさにエリートコース。しかも高校時代は非常に学業優秀でMIT(マサチューセッツ工科大)から入学を認められたがレーサーの道に進むために辞退している。

 

 そのヒルデブランド選手とパネル後にインタビューする機会を得た。まず質問したのは「自動運転のレーシングカーというものが生まれる可能性はあると思うか、その場合、AIレーサーと対戦してみたいと思うか」ということ。

 ヒルデブランド選手の答えは「もちろんそうなる可能性はあるし、個人的にはAIドライバーと対戦することに興味はある。チェスや将棋でもAIと世界チャンピオンが対戦して話題になったし、AIレーサーというのがどういうものか、実際に見てみたいという気持ちはある」だった。 

 しかし将棋やチェスとの違いは、レーシングには命が懸かっている、そのような危険性を伴うものだ、という点だ。ヒルデブランド選手自身2011年にクラッシュを経験し、同年末にはラスベガス・モーター・スピードウェイで行われたレースで15台が巻き込まれるクラッシュにより病院搬送されたこともある。

 

「もしかしたらAIによるレースは人間が運転するよりも安全なものになるかもしれない。実際のレースでは何を考えて次にどんな行動を起こすのか予測できない人間を相手にしているわけだから。レース中の判断というのはコンマ何秒で行うようなもので、常に危険と隣り合わせなんだ。それが見ている側からはエキサイティングかもしれないが、レーサーとしては時にストレスになる」という。

 AIがレースに勝つために人間のようなリスクに賭けることはあるのか、というのも興味深い点だが、そもそも現在のレーシングカーはマシンそのものが進化してメーカー対メーカーの戦いのようになっている点もヒルデブランド選手にとっては面白くない現状だという。

「レースの結果を見てもホンダが勝った、というような言われ方をする。今はレーサーがまるでハイテクマシンのオペレーターのような扱いを受けていると思うんだ。レーサーの個性が前面に出てこない、というか」そう語る同選手は、これを変えるためには「もっとレーサーが自らを語り、レーサーという職業の難しさ、危険さに打ち勝つ気持ちなどを広くアピールする必要がある」という。

 確かにモータースポーツの世界ではかつてアイルトン・セナ、ナイジェル・マンセルといったスーパースターがいて、モータースポーツという範疇を超えて世界中で人気を博していた。現在それほど有名なレーサーが存在するか、と言えば答えは否だろう。

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