Inside Russia

2017年12月7日

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 ソチ五輪のドーピング検査所のグリゴリー・ロトチェンコフ元所長が暴露した、薬物漬けの選手の尿検体のすり替え工作は「不正の域を越えた犯罪」(世界反ドーピング機関=WADA=調査チーム責任者、リチャード・マクラーレン氏)だった。一連の極秘の作戦にはKGBの後継機関、連邦保安局(FSB)の要員も加わっていた。

 検査所職員が選手に不正を認める代わりに賄賂を要求することも横行し、泥沼の闇が白日の下にさらされた。ロトチェンコフ氏は米ニューヨークタイムズ紙に書簡を寄せ、「ロシアのシステムでは選手は不正をする以外選択肢はなかった。選手も犠牲者なのです」と訴えた。

 16年2月、ドーピング工作の内実を知る立場のロシア反ドーピング機関の歴代トップ2人が相次いで不審の死を遂げた。死因は病死だが、「死人に口なし」と言われた。その後、身の安全を恐れたロトチェンコフ氏は米国に亡命した。

 IOCやWADAは数々の証拠をあげて、不正は国家ぐるみであったと断定した。汚れた五輪を清浄化するため、「盗まれたメダル」を取り戻すため、プーチン政権に国家ぐるみのドーピング隠しを認め、スポーツ界から不正を一掃するよう圧力をかけた。

 しかし、プーチン政権は対策に乗り出すも、国家ぐるみの不正を認めることはなかった。考え直す時間は十分に担保されていたが、むしろ反発を強め、ロトチェンコフ氏に「裏切り者」(大統領府のペスコフ報道官)の烙印を押し、個人の責任に押しつける世論工作を進めた。

 何よりもプーチン大統領が率先して、米国がIOCに圧力をかけている陰謀論をロシア社会に広めた。米国で進むロシアゲート疑惑捜査に対抗する形で、「彼ら(米国)は(来春の)ロシア大統領選で問題を起こしたがっている」。ドーピング問題を利用して「(ロシアの)スポーツファンや競技者の間に不満の雰囲気を作りだそうとしている疑いがある」と語った。

反米精神を改めて訴えることが
求心力を高める一番の近道

 一方、IOCにとってもロシアが出場しなければ、冬季五輪は偽りの世界大会になるという危惧を抱いていた。世界の都市から五輪開催が倦厭されるようになり、オリンピックムーブメントを推し進めるためにはスポーツ界で一致団結した姿勢が求められていた。そもそも、ロシアのメダル候補、エフゲーニア・メドベージェワやアリーナ・ザギトワら世界中にファンを持つフィギュアスケートは筋肉増強などに用いられるドーピングとは無縁の世界なのである。

 結果、IOCは最も厳しい全選手締め出しの措置を取るのをやめ、潔白を証明できるクリーンな選手である限り、国旗なし・国歌なしの「ロシアからの五輪選手」としての出場を認めることにした。

 ロシア人選手の中立選手での出場権利を認めたプーチン大統領は6日の演説で、「ロシアにも一部悪いところがあった」とのべ、蔓延していたドーピング体制を反省する姿勢も見せた。しかし、政界や保守派は「侮辱的だ」としてIOCを激しく批判した。6日夜、ロシアTVの討論番組に出演した国会議員はこう訴えた。

 「国歌なし・国旗なしのロシア代表選手の出場など私には認められない。なぜなら、ロシアは世界の偉大な強国であるだけでなく、世界の偉大なスポーツ大国であるからだ」

 「選手なら行きたいだろう。しかしそれはパトリオットではない。政治家として言う。行くか行かないかは国家が選択するのだ。五輪に行ってはいけない」

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