中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年11月19日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 10月に菅総理はTPP(環太平洋経済連携協定)への日本の参加を検討するとし、APEC首脳会議の折の11月13日には「国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と表明した。TPPは、加盟国間の貿易についての関税撤廃だけではなく、ヒトの移動、サービス、基準認証などの共通化を図るなど高い水準の自由貿易圏を目指すものであり、関税撤廃で安い海外農産物の流入が想定される農業では反対論が高まっている。しかし、賛否両論が噴出する中で、TPPがもたらすものは関税撤廃に止まらない。

TPPは日米FTA

 TPPは2006年5月にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国間で発効した経済連携協定(EPA)だ。その後、当初の4カ国に加えて、オーストラリア、ペルー、米国、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、コロンビアとカナダも参加の意向を明らかにするなど、国際的にも最近注目度が高まっている。

 その最大の理由は米国の参加表明にある。米国は、ASEANプラス3(日中韓)あるいはASEANプラス6(日中韓+インド、オーストラリア、ニュージーランド)といった東アジア地域での自由貿易圏構想に入っていない。そこで、その対抗策として米国が打ち出したのがTPPへの参加といえる。

 したがって、日本がTPPに参加すれば、それは日本が中国に次いで貿易関係が深い米国と自由貿易協定(FTAあるいはEPA)を結ぶことと同じになる。当然、その日本経済への効果は大きい。

 もっとも、日本のTPP参加については課題が多い。ひとつは、国内の農業問題だ。菅総理のTPP参加検討の指示がなされた後、経済産業省、内閣府および農林水産省がそれぞれ試算を発表している。経済産業省は、参加しなければ日本の自動車メーカーが米国市場でのシェアを韓国企業に奪われるなどして実質GDPが10.5兆円減少すると試算している。内閣府は、参加することで実質GDPは2.4~3.2兆円増加すると試算している。

 一方、農水省は、TPP参加で関税などが即時撤廃されれば、農林水産物生産は4.5兆円程度減少し、食料自給率は現在の40%から13%に低下、雇用は350万人程度減少すると試算している。輸入米価格が下がっても、国民が消費する米が全て外米に変わるとは思えないが、相当の打撃があることは確かだ。

 二つ目の課題としては、日本が参加表明をしても参加国から却下される懸念が挙げられる。現に、カナダの参加では参加国や米国から準備が整っていないとして時期尚早との判断を受けている。したがって、日本が参加を正式に表明しても、農業問題などの対応が明確にならなければ参加拒否の判断を受ける可能性はある。

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