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2017年12月17日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

ディープスロートはFBI副長官

 真相解明につながる別の可能性、期待はディープスロート、つまり内部情報をリークする人物が現れるかどうかだ。ウォーターゲート事件では、この内部通報者が主要な役割を演じた。多くの世代は、この事件を知らないだろうから、事件とディープスロートの関わりついて触れておきたい。

 1972年の大統領選挙運動さ中に起きた。再選をめざしていたニクソン大統領(共和党)再選委員会の関係者らが民主党全国委員会(DNC)に侵入、盗聴器を仕掛けようとして捕まった。DNCの入っていたビルは、ワシントン市内を流れるポトマック河の水門近くにあったことから、ウォーターゲートビルと呼ばれ、事件の名前もこれに由来する。

 当初は小さな不法侵入事件として、ほとんどのメディアが関心を示さなかったが、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード、カール・バーンスタインの2人の若手記者が粘り強く事件を追い、政権上層部の関与、もみ消し工作も行っていた事実を報じるに至って、大スキャンダルに発展した。ニクソン大統領が関わっていた疑いが強まり、下院司法委員会は1974年7月、大統領の弾劾訴追を可決、大統領は本会議での可決を待たず翌月、辞職した。任期半ばで米大統領が辞職したのはニクソン氏が初めてだった。

 後にロバートレッドフォードらが主演、「大統領の陰謀」というタイトルで映画化されたから、ご覧になった読者もいるだろう。

 2人の記者に機密情報をリークし、スクープをもたらしたディープスロートは、もちろん映画にも主要な人物として登場する。70年代に制作された成人映画のタイトルを冠せられたこの人物がだれなのか、長い間、謎だった。 

 事件から30年以上たった2015年、内部通報者は突然、自らそのベールをとった。「私がディープスロートだった」という告白記事が米誌「バニティー・フェアー」に掲載され、世界中を驚かせた。事件当時のFBI副長官、マーク・フェルト氏がその人だった。

 名乗り出た当時91歳、脳卒中の後遺症で記憶が薄れており、テレビのインタビューに「本を出して金もうけをする」などと無邪気に語るだけで、何がリークに駆り立てたのかなど詳しい話を聞くことはできなかった。実際に告白記事の執筆に当たったのは、フェルト氏の娘と顧問弁護士だったというが、「祖国を不正義から守ろうとした」とその動機を説明した。

 ディープスロートとの約束に従って、生存中は、誰であるか明かすことはないーと宣言していたワシントン・ポスト紙も、記事が掲載されたことを受けて、氏がニュース・ソースであったことを認めた。

 ディープスロートについては多くの人の名前がとりざたされていた。キッシンジャー大統領補佐官(当時、国家安全保障問題担当、後の国務長官)、ヘイグ次席補佐官(やはり後の国務長官)、CIA(中央情報局)長官だった先代ブッシュ大統領……。「実在するのか」との疑問も流布されていた。フェルト氏自身の名前もあがっていたというから、「正体」についての意外性は乏しかったともいえ、「スーパーマンがクラーク・ケントと知るようなもの」(ニューヨーク・タイムズ紙)と残念がる向きすらあった。

 筆者は当時、新聞社のワシントン特派員だったが、「ディープスロートの正体判明」を受けた米メディアの狂乱、大々的な報道ぶりはなお記憶に新しい。そういう筆者自身もやはりいささか興奮しながら大量の記事を東京に送稿し続けたが。

 フェルト氏は2008年に亡くなった。

捜査責任者の解任など共通点

 話をロシアゲート疑惑に戻そう。ウォーターゲート事件との単純な比較は禁物だが、共通点があるのは事実だ。

 ウォーターゲート事件は、大統領選挙に絡んで、政権党が反対党の盗聴を企み、大統領も関与するという民主主義の根幹に関わる事件だった。ロシアゲートは外国政府が米国の大統領選に不当に介入するという、それだけでも由々しきことだが、疑惑を承知しながら、トランプ氏の側近がロシア側と違法な接触を持ったというのだから、これまた国家の安全保障を揺るがしかねず、深刻さにおいては劣らない問題だ。

 捜査幹部が大統領自身によって解任され、これがかえって疑惑を深めたことも共通する。トランプ大統領がFBI長官を解任する直前、長官に対し「自分が捜査対象になっているかどうか」と尋ね、「対象ではない」との回答を得てから、長官のクビを切っている。なにやら後ろめたさを感じていることをうかがわせる。

 ウォーターゲート事件では、ニクソン大統領に対して、執務室での会話録音テープの提出を求めた特別検察官が、やはり逆に大統領によって解任された。テープは大統領にとって不利な証拠とみられていたため、疑惑は一気に拡大、事件の節目のひとつとなった。

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