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2017年12月20日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)などがある。

 ところが、そんな中国のトイレが大きく変わりつつある。ひとつの転換点だったのは08年の北京オリンピックだ。このとき、世界中から選手団やメディア関係者、観光客を受け入れることになり、北京市は急ピッチで公衆トイレの設置や改装などを進めた。北京市はとくに古い横丁(中国語で胡同(フートン)という)が多く、自宅にもともとトイレ設備がない平屋の住宅が多かったため、公衆トイレが横丁の住民の共同トイレとなっていた。そうしたところを始め、外国人観光客が行く「万里の長城」や「天壇公園」「故宮博物院」などのトイレも改装したり、数を増やしたりして対応した。

「トイレ」にこだわる習近平主席

和式のトイレもまだ多い

 しかし、私の肌感覚では、その後の数年間、中国のトイレ事情に大きな変化はなかったように思う。むしろ後退していたといってもいい。中国は2000年代、年率10%を超える経済成長を遂げたが、経済成長に伴ってトイレも劇的にきれいになったか、というとそうではない。高速鉄道や高速道路、高層ビルなどは次々と建設していったものの、高級ホテル以外のトイレは北京オリンピックで改装したときのまま。北京以外の都市では相変わらずの状態だった。

 私がとくに困ったのは水が流れないことだった。トイレ(便器)というハードの設置はだんだん進んでいったものの、水洗トイレのペダルを押しても流れない、洗面台の水が出ない、つまりソフト面が追いついていなかったことだ。トイレの水が流れないまま(水の勢いが弱くて、全部流れない状態で残る、またはまったく流れない)、次の人が使い、それも中途半端な状態でしか流れないので、トイレ内が大変なことになっている……。また、洗面台も蛇口ではなく、日本と同じようなセンサー式を導入したのはよいものの、センサーに何度手をかざしても、水が出ないことがよくあった。それどころか、洗面台に埃がたまっていることがよくあり(つまり長い間、そこに水が流れた形跡がない)、床は水浸しなのに、トイレの個室にカバンを掛けるフックがなく、カバンを置く場所もなかった。

 そんな中、2013年に習近平氏が国家主席に就任すると「トイレ」について言及する機会が増えていった。地方視察の際はトイレが水洗かどうか直接農民にたずねたりするなど、常にトイレ問題を気にしていた。15年になると習氏は「17年までに全国5万7000カ所に公衆トイレを新設・改装するほか、農村部で水洗トイレの導入を急ぐ」と明言。国家観光局が公衆トイレの整備計画をスタートさせた。そして今年10月末までに、その目標を上回る6万8000カ所でトイレが新設・改装され、また、改めて「トイレ革命」が宣言されたというわけだ。

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