2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月4日

 英国のEU離脱が、連合王国の一部である北アイルランドをEU単一市場および関税同盟から脱退させることになりますが、それはアイルランドと北アイルランドの国境が英・アイルランドのEU加盟前の状況に引き戻されることを意味します。この国境の厳格化は、北アイルランドに平和をもたらした和平合意(Good Friday Agreement)の基盤を掘り崩します。

 Brexit交渉は大きな諸問題を抱えていますが、この問題が今、大問題になってきています。

 どうすればよいのか、なかなか解決策が考え付きません。

 一つの解決策は、北アイルランドは実質的に今まで通りとし、英国の国境管理は英本土まで後退させることです。こうすれば、アイルランドは満足するでしょうが、英国としては、英国内に国境を引くことになり、その一体性は犠牲にせざるを得ません。そんなことが憲法上できるのかとの疑問があります。ただ最終的には、英国が北アイルランド全体を特区としたとの整理は法的には可能かもしれません。しかし政治的には困難でしょう。

 今一つの解決策は、英国とEUの間で特別な協定を結び、関税同盟を作ることです。そうすれば、英国内での関税面での国境も不要で、アイルランドと北アイルランドの国境もさほど厳格化することもなくなります。EU・トルコ間の関税同盟など、先例もあります。しかし、これでは何のための離脱なのかという話になる可能性があります。

 ただ移民についての統制権限は英国自らに取り返せたと離脱派は言うことができます。

 この問題について、英国とアイルランド、英国とEUが今後話し合いをしていくことになりますが、アイルランドが英国より交渉上の立場が強いというこの論説の指摘はその通りでしょう。

 英国がアイルランドの要求(大まかに言って北アイルランドの現状維持)に応じない場合、アイルランドは離脱交渉の進め方に拒否権を使うと明言しています。今でも遅れている離脱交渉がさらに遅れることになり、それは「合意のない英国の離脱」の可能性を高めます。「合意なき離脱」は英国、アイルランド、EUに大きな損害をもたらすでしょう。英国もアイルランドもEUも、最後には自傷行為は避ける決定をすると思われますが、Brexit交渉はまだまだ予断を許しません。

 Brexitは英国にもEUにもアイルランドにも何の利益ももたらさないことがますます明らかになってきています。離脱派にも間違ったと反省している人も多いのではないでしょうか。しかし、国民投票で離脱すると決まり、メイ首相はそれをやらざるを得ない立場にあります。

 尚、英国経済はこの離脱騒ぎのために振るわず、GDPの規模でフランスに追い抜かれました。Brexitにともなう英国の苦難はなかなか終わりが見えません。勝手なことを言っている離脱派のボリス・ジョンソンを首にもできず、メイ首相の苦労は尽きないように思われます。

  
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