オトナの教養 週末の一冊

2017年12月22日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 「20世紀半ばから21世紀初頭にかけてのマシンをめぐる技術文化社会史」。そう「訳者あとがき」にあるように、本書は、技術がもたらす明と暗の両面から、マシンの上昇(rise of the machines)と下降(fall)をとらえ、変奏曲のように行きつ戻りつ繰り返される大きな流れを描き出す。

 戦争時の制御と通信に始まり、「サイバネティクス」の誕生、自動化(オートメーション)、サイボーグ、サブカルチャー世界、サイバースペース、そこに構想されるアナーキーな世界、情報戦争(サイバーウォー)と続き、最後は、マシンの下降にいたる。

 そこに描き出されるのは単なるマシンの歴史や技術史ではなく、マシンと人のフィードバックによって孵化し、成長し、変容していった、いわば”サイバネティクス化した全地球史”といえるだろう。

「人類は思考するマシンに何を夢見たのか」

 本書の原題『Rise of the Machines』は、映画「ターミネーター3」の副題となっている言葉だそうだ。

 こんなところからもわかるように、本書の面白さは、サイバネティクスが同時代人の想像力に大きな刺激を与えた事実をとらえ、思想や文化の系譜としていきいきと活写している点にある。

 学会や秘密の会議、ヒッピーやハッカーたちの集会、諜報機関の攻防において交わされた意見や皮肉、ひそひそ話までが記されていて、映画の一幕を見ているようにスリリングな場面もある。

 モノクロの口絵も、戦争からサイボーグ、カウンターカルチャー、芸術作品にいたるまで多種多様な写真が豊富に並び、サイバネティクスがいかに広く文化や社会とインタラクトしてきたかがわかる。

 たとえば、ハリー・ホイットヴァーの描いた都市の風景。これは、安全保障に対する新たな脅威を伝えるもので、1991年に実業家で作家のウィン・シュワータウが「電子的真珠湾」(日本人には痛い!)という言葉をつくり、警鐘を鳴らしたことに呼応する。

 一方、サンフランシスコのアングラ誌『モンド2000』は、「幻覚剤と仮想現実とコンピュータ・ネットワークの上昇をつなぐ」奇妙で刺激的なイラストや、「入植できる新たなフロンティア」としての「サイバースペース」の挿絵などを掲載し、サイバーパンクの美意識を形成した。口絵には、それらのイラストや「皮肉だらけのサイバーパンク・ガイド」もあって、目が釘付けになった。

 個人的には、『ホール・アース・カタログ』を1968年に創刊したスチュワート・ブランドらの話が興味深かった。

 黒い背景に丸い地球が浮かぶ表紙で飾られた『ホール・アース・カタログ』第1号は、会員のためのフィードバックループとなることを意図しており、サイバネティクスに関する本を6点も紹介していたという。

 その後、初のコンピュータ化されたSNSであるWELL(全地球電子的リンク)を1984年にブランドが始めるきっかけになったのが、「『ホール・アース・カタログ』をヒッピーのコミュニティ全体とともにオンラインに乗せる」という誘いだった。

 「郵便でつながるのではなく、モデムでつながった一つの電子的サブカルチャー」である全地球電子的リンクの目指した自由や平等の思想こそが、インターネット社会を孵化させる原動力のひとつとなったことを再認識した。

 「人類は思考するマシンに何を夢見たのか」・・・・・・、そう本書は問いかける。生まれ落ちたとたん否応なくサイバー社会に放り出され、IoTだのAIだのに囲まれるいまだからこそ、過去を振り返り、問い直す意味があると感じた。
 

  
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