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2017年12月21日

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ジャスティン・ローラット南アジア特派員

国際連盟(国連)のゼイド・ラアド・アル・フセイン人権高等弁務官は、ロヒンギャに対してなされた惨事の加害者たちに法の裁きを受けさせようと固く決意している。

フセイン国連人権高等弁務官は、人権保護を世界的に監視する国連組織の責任者だ。そのため、フセイン氏の意見には影響力がある。

裁きの対象は、トップの人物にまで及ぶ可能性がある。ミャンマーの事実上の指導者アウンサンスーチー氏やミン・アウン・フライン国軍最高司令官が、ジェノサイド(集団虐殺)の疑いで将来的に裁判にかけられる可能性を、フセイン高等弁務官は排除していないのだ。

フセイン氏は今月5日、国連人権委員会に対し、ミャンマーの少数民族ロヒンギャに対して、組織だって広範囲に迫害が行われているということは、ジェノサイドの可能性を排除できないと述べた。

BBCの番組「パノラマ」の取材でジュネーブの国連本部で会った際、フセイン高等弁務官は我々に「規模を考えると、明らかにこれらの軍事行動は高い地位の人間が下した決定だ」と語った。

とは言うものの、ジェノサイドは不用意に使われることが多い言葉の1つだ。いわゆる「犯罪の中の犯罪」で、恐ろしい響きを伴う。これまで、ジェノサイドで有罪判決を受けた人は非常に少ない。

この犯罪は、ホロコーストを受けて定義された。当時設立されたばかりの組織だった国連の加盟国が、特定の集団を意図的に抹殺しようとする行為としてジェノサイドを定義した「ジェノサイド条約」に署名した。

ジェノサイドという行為が行われたかを証明するのは、フセイン高等弁務官の仕事ではない。それを証明できるのは裁判所だけだ。しかし、主にミャンマーのラカイン州北部出身であるムスリム(イスラム教徒)の民族集団ロヒンギャに、フセイン氏が「衝撃的なほど残忍な攻撃」と呼ぶ行為をした加害者たちを国際犯罪捜査の対象にするよう同氏は求めている。

しかしフセイン氏は、立件は難しいだろうと認識している。「理由は明らかで、ジェノサイドを計画していたら、紙に書き残さないし、やり方も指示しないものだからだ」。

「証拠になるものを集めるのは難しい」とフセイン氏は言う。「しかし我々が目にしていることを根拠に、裁判所がもし将来的にそのような結論に至っても、私は驚かないだろう」

12月上旬までにミャンマーから避難したロヒンギャの数は、ロヒンギャ人口の約3分の2にあたる65万人近くに達している。8月下旬以降、ミャンマー軍率いる攻撃が相次いだためだ。

何百という村が焼き払われ、何千という人たちが殺されたと報じられている。

むごい残虐行為がなされた証拠がある。大虐殺、殺人、集団レイプ。ロヒンギャ危機が始まったころ、難民キャンプで私自身も聞いた話だ。

フセイン国連人権高等弁務官がいら立っている理由は明らかに、ロヒンギャを保護するための手を打つよう、暴力が爆発的に起こった8月より半年も前に、すでにスーチー氏に要請していたことだ。

2016年10月に起こった暴力の中で行われたむごたらしい残虐行為を記録した報告書を、フセイン氏の事務所が今年2月に公表した際、同氏はスーチー氏と電話で話したと言う。

「こうした軍事行動を終わりにするように訴えかけた」とフセイン氏は話した。「彼女の感情に訴えかけた……これを終わらせるために彼女ができることは何でもしてほしいと。でも非常に残念なことに、何もしなかったようだ」。

ミャンマー軍に対するスーチー氏の権力は限定的ではあるが、軍事行動をやめさせるために同氏はもっと行動すべきだったと、フセイン高等弁務官は考えている。

フセイン氏は、スーチー氏が「ロヒンギャ」という言葉を使わないことも批判している。「ロヒンギャの人たちからその名を奪うという行為は、何をしてもいいのではないかと思わせるほどにまでロヒンギャの人間性を奪ってしまう」と、国連幹部にしては非常に強い言い方で述べた。

2016年の暴力行為に対して国際社会が何もしなかったことで、ミャンマー軍は大胆になった、とフセイン高等弁務官は考えている。「ミャンマー軍はその時、恐れることなく続けられるという結論に達したのだと思う」。

「これがものすごくよく練られて計画されたものなのではないか、と我々は感じ始めた」とフセイン氏は言った。

ミャンマー政府側は、軍事行為は治安部隊12人が犠牲になった8月のテロ攻撃に対応したものだと述べている。

しかしBBCの「パノラマ」は、ロヒンギャに対する執拗な攻撃の準備が、それよりもずっと前から始まっていたことを示す証拠を集めた。

「パノラマ」では、ミャンマーが地元の仏教徒を訓練して武装させていたことを取り上げている。昨年の暴力事件から数週間のうちに、ミャンマー政府は「自分たちの州を守りたいラカイン州の国民には全員、地元の武装警官になるチャンスがある」と募集をかけたのだ。

「民間人に対し効果的に残虐な犯罪を犯すために下された決断だ」と話すのは、人権保護団体フォーティファイ・ライツのマシュー・スミス最高責任者だ。同団体は、今年の暴力事件について、その過程を調査している。

この見方は、ミャンマーの広大な難民キャンプにいる難民らによって裏付けされた。彼らは、こうして志願した武装警官たちが近隣のロヒンギャを攻撃し、家を焼き落としている姿を見たのだ。

「まるで軍隊だった。武器も軍と同じようなものを持っていた」と話すのは、ミャンマーで成功した事業を営むモハメド・ラフィク氏だ。「彼らは、私たちも知っている地元の青年たち。軍が私たちの家を焼き落とし、私たちを痛めつけていた時、その子たちもそこにいた」。

一方でロヒンギャは、さらに窮地に追い込まれつつある。

食糧不足が、今年の夏にはラカイン州北部にまで広がった。そして政府は一層圧力を強めた。「パノラマ」の取材によると、8月中旬以降、当局は実質上、ラカイン州北部への食糧やその他の支援物資の配給を全て止めているのだ。

さらに軍は、増援部隊を呼び寄せた。軍事攻撃の2週間前である8月10日、大隊が空路で到着したと報じられた。

国連人権委員会のミャンマー代表は、ミャンマー当局に自制を求める公的な警告文を発表するほど懸念した。

しかしロヒンギャ武装勢力が警察や軍施設30カ所を襲撃した時の軍の反応は、大規模で組織的かつ破壊的だった。

BBCは、スーチー氏とミャンマー軍のトップにコメントを求めたが、いずれからも回答はなかった。

こうした攻撃から4カ月近くたったが、フセイン国連人権高等弁務官は、暴力行為の余波はまだ終わっていないと懸念している。フセイン氏は、「もっとひどい何かの幕開けにしか過ぎないのではないか」と恐れているのだ。

バングラデシュの広大な難民キャンプ内でイスラム教聖戦(ジハード)集団が作られ、ミャンマーに攻撃を仕掛ける可能性があるのではないか、もしかしたら仏教寺院を標的にさえするかもしれない、とフセイン氏は心配している。その結果は、仏教徒とイスラム教徒の「信条の対立」とフセイン氏が呼ぶものになりかねない。

フセイン高等弁務官本人が認めるように、これは恐ろしい考えだ。しかしミャンマー政府は、深刻に受け止めてはいない。

「つまり、危険の度合いは測り知れないほど高い」とフセイン氏は言う。「国際社会が真剣に懸念していることに対し、このように軽々しく応対するというのは、非常に憂慮すべきことだ」

(英語記事 Could Aung San Suu Kyi face Rohingya genocide charges?

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-42436574

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