WEDGE REPORT

2017年12月27日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

 その日の夜、もっと恐ろしいこんな話をK氏に聞いた。

 ある国の駐在員の妻が殺され、第一発見者の夫が疑われて拘置所に入れられ、その国の大使館や派遣企業が解放に手をつくした。けれども、拘置所を出た時には精神に異常をきたしていた。
この手の話は欧米や日本の駐在員の間で語り継がれる都市伝説のようものかもしれないが、いい悪い別として、サウジの国柄からして欧米流の人権は通じないのだから、ありそうなこと思え、恐怖を感じたのを覚えている。

 あれから20年ほど立った今も、そんなサウジアラビアの状況は変わらないままなのだろうか?

格差は続く

 最近のサウジの事情が知りたく、今年の6月、プラント技術者のTさん(キャリア40年)に数年ぶりで会った。2014年10月~15年4月まで中東最大のジュベール工業都市でジェット燃料生産プラントの建設現場で働いていた。施工は韓国系の企業でオーナーはアラムコである。

 石油精製、石油化学、鉄鋼などのプラント工業群から成る、ジュベールには日本の主要な建設会社やエンジニアリング会社は一度は進出したはずだ。筆者もジュベール港出港のサウジ産の鉄加工品を別の国で何度も受け取ったことがある。

 「暑い? だから今回はまだ過ごしやすい4月~10月だけの勤務にしたんだよ。命令するほうだから、勤務はそんな大変じゃなかった」

 筆者と違い位が高いので残業、残業というわけではない(「カタールに出稼ぎにいってみたが、まさかの派遣切りに」参照)。他の国の人はどうなのだろうか。

 「フィリピンとインドは職場の中間層で、仕事や生活もまだ余裕があるんじゃないかな。フィリピン人は家族も呼んでいた。外人女性も外ではアバヤを被っていたな。大変なのはクラークや掃除夫のネパール人で、知り合ったひとりは朝から夜まで働いて残業代を稼いで、長年サウジから家族に仕送りをしていた。月給? 1000ドルいくかいかないかぐらいじゃないかな」

 世界中どこでも勤務時間が長く辛い職種に限って報酬は少ない。とはいえ、ネパール国内の建設労働者は月給100ドル前後だろうから、10倍にもなる。

 「サウジの人間も何人かいたよ。何割か雇わなきゃいけないって政策だからね。でも彼らは新聞を読むか煙草を吸っていたな」

 サウジアラビアは人口の3分の2ほどを30歳以下の若年層が占め、失業率は20~30%。政府はサウジ人の雇用を増やす(サウダイゼーション)意向だが、そう簡単ではない。何ら税金はなく(2018年から消費税5%導入の予定)、教育も無償となると、勤労意欲は湧かない。せいぜい公務員になって日に2、3時間就労すればいい。また、初等教育が義務教育として確立したのは2004年である。

 「プロジェクト本部はリャドにあったから、そこまで車で4時間の行程で、途中テントとか仮小屋のような家を見たね。あと、アラムコのプロジェクトに従事する人間は別格だよ。30歳そこそこでベンツに乗っているし、欧米に留学している。我々に命令するほうだから。そういえば、映画館の建設が許可されたみたいだな」

 外は灼熱だ。宗教警察の目も光っている。冷房のきいた映画館もまだないのだから、人々は自然ゲームなどの室内の娯楽に関心を持つ。だから、日本のオタク文化好きがたくさんいる。経済改革計画「ビジョン2030」は娯楽面の拡充もうたわれ、17年の2月にはジェッダで、オタク文化の祭典『コミコン』が開催されて2万人前後が参加したという。

 けれども映画の上映には保守的な宗教界が反発している。王家は宗教警察の力を削ごうとしていて、宗教界と王家の綱引きが続いている。

反テロ法の拡大解釈

 サウジアラビアはイラクやシリアの内戦の影にかくれてあまり報じられないが、90年代からテロが頻繁に起こっている。外国人居留地で英米人が狙われることが多い。10月には、サウジアラビア西部ジッダにある宮殿の西門付近で、男が自動小銃で兵士に発砲するテロ事件があった。当時、ムハンマド・サルマーン皇太子はジェッダにいたと伝えられている。

 キャンプなどの治安対策はどうだったのだろうか。

 「リヤドのサイトに入る時の、セキュリティGateだけは面倒だったな。朝の6時ころ到着したのに、ライフルを持つ門番が英語を全く理解せず、こちらの運転手の素振りも解らず、サイトの門の外の食堂・喫茶のような所で3時間も待たされた」 

 T さんが滞在した2014年にはサウジアラビアでは日本に先駆けて「テロとテロ資金に対する対策法」が施工されている。国内外で過激な宗教・思想集団に対して所属、支援、支持の表明をした場合、懲役5年以上30年以下の懲役刑、さらに容疑者を6カ月留置でき、外への連絡は90日間禁止される。捜査当局は容疑者の尾行・盗聴・家宅捜索が可能となった(参考『サウジアラビアを知るための63章 「11章 初の包括的テロ対策法」』中村覚 明石書店)。

 同法を盾に2015年7月には、サウジアラビア治安当局は、ISILに連なるテロ関係者431名を逮捕し、同年9月にも、東部州及びリヤド市内に潜伏するテロリスト多数を摘発している。と、同時に人権活動家、ジャーナリスト、ブロガ―などにも適応され、テロと無関係な人間が監禁され、国民の口封じとなっている。 

 5月には、国連代表が人権状況をサウジアラビアに視察に行き、推定無実の囚人との面会を求めたが、認められなかったこともあり、国連は反テロ法の拡大運用による人権侵害と言論の自由を封じる弾圧に対して非難している。

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