2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2010年11月30日

 西新宿中学校のある新宿区は、23区で最も外国人児童が多く、ある小学校ではその割合が60%にものぼる。同中学校も、両親が外国人の生徒は約2割、片親だけが外国人の生徒を含めると約3割だ。彼らの日本語レベルは様々で、日常会話は問題なくとも、授業が理解できずに学習に対してやる気をなくしてしまう子もいる。

留学生も大活躍

 そんな彼らにとって、渡邊教授の学生ボランティアの存在は心強い。学生の中には中国や韓国からの留学生もいて、母語で説明したり、日本語を教えたりして、学習の補助に入ることができる。母語での会話は、生徒のストレス解消にもなり、精神的な支えともなる。野口敏朗校長によると、「日本語が分からない保護者の通訳をお願いしたこともある」というほどの活躍ぶり。もちろん留学生だけでなく、日本人の学生が外国人児童のレベルに合わせて勉強を教えることで、スムーズな学校生活を送る手助けとなっている。

 ボランティアの存在は、外国人児童にとってだけでなく、勉強に対して苦手意識をもつ日本人生徒の学習支援にも大いに役立っている。大友照典副校長は、「現代の中学生は、一昔前と比較すると、学力だけでなく精神発達の度合いも実に多様であり、それだけ色々な生徒たちを見るためには、授業中もたくさんの目があることは大変ありがたい」と語る。また、授業中だけでなく、希望者には放課後学習の時間が設けられており、そこでも学生が待機していて、いつでも質問できるような環境が整えられている。

 冒頭の数学の授業は、習熟度別で2クラスに分かれており、この日見学したクラスでは9名の生徒が勉強していた。教える側は、数学の教師が1名、補助の教師が2名、学生が3名と、きめ細やかな指導が可能となる万全な体制だ。実際に問題演習の時間には、「先生!」と呼べば誰かしらがすっと寄り添い、生徒の質問に耳を傾けていた。

動機も様々 学生たちの思い

 学生たちはなぜこの活動に興味をもったのだろうか。取材日にボランティアへ来ていた3名の学生に聞いてみた。全員立教大学の学生で、ボランティアに取り組んでいる期間も半年であったり、この日で2回目だったりと様々。教師を目指している人はおらず、「(勉強を)教えることをしてみたかった」「(活動を通じて)何か得られるのではないかと思った。自分を変えたかった」「外国人児童の問題に興味があった」と動機は実に多様である。渡邊教授は、「教職をとっていない学生だからこそ、彼らは色々な思いを抱いてこの活動に参加している。そんな彼らが中学生と接することで、先生とは違った視点で彼らに何かを与えられるのではないかと思う」と考えている。

 しかし、大学生は、半期ごとに授業も変われば、いつか卒業もしていく。一見、社会人や退職した教師などにボランティアを依頼した方が効率的のように思われるが、そこには学生だからこその意義がいくつかある。まずは年齢。中学生にとってはお兄さん・お姉さんのような存在の大学生が、フランクな口調で勉強を教えることで、生徒も心を開きやすい。3年生のある女生徒は、「マンツーマンで教えてもらえるし、年が近いから話しかけやすい」と積極的に学生に質問していた。また、雑談の中で「大学」とはどういうところなのか、どんな勉強をしているのかなど、中学生が普段あまり聞き得ないような話もできる。これによって、生徒たちは「大学」に憧れを抱き、自分の将来について多少なりとも考えるきっかけとなる、というメリットもある。

 大学生も、中学生と接することで、自分たちが得るものの多さを感じている。前出の立教大学の学生たちは、「生徒が『分かった!』と言ってくれると本当に嬉しい。やりがいを感じる」「外国人の生徒と触れ合うことで、多様な価値観を知ることができる」「学生同士でも、留学生の向上心には刺激を受ける」と話してくれた。活動へのモチベーションが色々なところにあることが分かる。


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