個人美術館ものがたり

2010年12月10日

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赤瀬川原平 (あかせがわ・げんぺい)

画家、作家

1937年、神奈川県生まれ。60年代にネオ・ダダイズムなど前衛芸術運動に参加。80年「尾辻克彦」名の『父が消えた』で芥川賞を受賞。『散歩の学校』『昭和の玉手箱』『千利休 無言の前衛』など著書多数。

ひろしま美術館は地方銀行の創業100周年記念事業として設立されました。
しかしその陰には、原爆犠牲者への鎮魂と、残された自分に何ができるのかという、
一人の人物の大いなる意志の力が秘められていました──。

  ひろしま美術館にはいい絵がたくさん、という印象がある。それもぼくの好きな絵が揃っている。自分が「名画読本」(『赤瀬川原平の名画読本 鑑賞のポイントはどこか』光文社知恵の森文庫)を書いたとき、取り上げた絵は「ひろしま美術館蔵」という場合が多かったのだ。セザンヌの「坐る農夫」、シスレーの風景画「サン=マメス」、ルソーの「要塞の眺め」など。

 そんな印象があったのだけど、その所在については知らなかった。広島市現代美術館や広島県立美術館と、広島という名前だけで混同していた。何しろ広島という名前は、それ自体が特別な強さをもっている。

 いざ訪れてみて、こういう美術館だったのかと、やっと納得した。静かな中央公園の中にあって、展示室は円形のシンメトリーの建物にまとまっている。これは原爆ドームをイメージしたものだ。一方そこに至る施設の回廊は、厳島神社をイメージしていて、正に郷土の美術館となっている。

メインホールの中心で天窓からの明かりに照らされているのはアリスティド・マイヨールの「ヴィーナス」

 円形の展示室の建物に入ると、まずは天井に明り取りのある場所に立つ。そこから四方の展示室のどこにでも入れるわけで、第一室がロマン派から印象派まで(ミレー、マネ、モネ、ルノワールなど)、次がポスト印象派と新印象主義(ゴッホ、シニャック、ロートレック、ルドンなど)、つづいてフォービスムとピカソ(ピカソ、マティスなど)、四つ目がエコール・ド・パリ(シャガール、フジタ、ローランサンなど)となっている。つまり真ん中から好みの部屋へ、すいと入ることができるのだ。

 そのほか、取材時には別館に、安井曾太郎、梅原龍三郎をはじめとする日本の近代美術が展示されていた。

 じつに充実した、落着いた気持になれる美術館だ。美味しいものを目にたくさんいただいて、満足である。新しい話題を欲しがる人には不満かもしれないが、その辺は美術鑑賞の方向や好みによっていろいろ分れる。

 この美術館を造ったのは銀行である。広島銀行の創業百周年記念事業として設立された。銀行がバックにある美術館というと、まずはオーナー社長というのを思い浮かべる。代々つづく資産家で、お茶やその他趣味が広く、家業の銀行を発展させながら、蒐集を充実させてきた、というタイプ。

右からコロー、ルノワール、ロートレック……粒選りの名画がかかる

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