2024年4月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月18日

 今回のトランプの決定は、全世界のイスラム教徒、さらに中東和平推進論者の大きな反発を呼び起こす愚行と言わざるを得ません。中東和平仲介者としての米国の立場は大きく傷ついたとみて間違いはないでしょう。今後、米国の中東和平に関する役割は低下すると思われます。

 上記社説のほか、ワシントン・ポスト紙は社説「トランプのエルサレムをめぐる動きは大きなリスクである」(‘Trump’s Jerusalem move is a big risk’, December 6, 2017)を、ニューヨーク・タイムズ紙は社説「トランプ大統領は中東での和平を望んでいるのか?」(‘Does President Trump Want Peace in the Middle East’, December 5, 2017)を掲載し、トランプを批判しています。他方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は社説「エルサレムの現実:トランプはイスラエルの首都についての選挙公約を守っている」(‘The Reality of Jerusalem Trump honors a campaign pledge on the Israeli capital.’ December 6, 2017)を掲載、少しトランプを擁護しています。

 今回のトランプの決定について、安保理の緊急会合と国連総会が開催されましたが、米国は非難の対象になり、孤立しました。我が国の同盟国である米国がその世界的影響力を低下させるのは残念なことです。

 1990年代、中東和平仲介にクリントン大統領が乗り出し、当時のイスラエルのバラク首相とPLOのアラファト議長をキャンプ・デーヴィッドにほぼ缶詰め状態にして交渉したことがありますが、この交渉は結局決裂しました。その直後、アラファトは「イスラエルのバラク首相(当時)がエルサレムを取りに来た」と決裂の理由を説明しています。バラクも帰国の第一声で、「自分はイスラエルにとってのthe Holy of holiesを守った」と言っています。このときの交渉はエルサレム問題でダメになったと言ってよいでしょう。国連の分割決議でのエルサレムの扱い、オスロ合意でのエルサレムの扱いなど、上記フィナンシャル・タイムズ紙社説が言う通りです。

 エルサレムについては、我々にはよく了解できない強い感情が、ユダヤ人にもイスラム教徒にもあります。ユダヤ人について言うと、嘆きの壁(神殿の西壁)の向こうには神がいることになっています。ローマは西暦70年に神の居所であるエルサレム神殿を壊しました。しかし、ユダヤ人は、「人間が神を引越させることなどできないから、今なお神はそこにいる」という11世紀のユダヤの哲学者マイモニデスの言を信じているのです。イスラム教徒にとっては、アル・アクサ・モスクに隣接した黄金のドーム(岩のドーム)は、ムハンマドが天国に行く時にその愛馬が蹴った岩を祭っており、聖なる場所です。これをユダヤ人に渡すなど、考えられないことです。こういう宗教感情に基づく問題は丁寧に解きほぐしていく必要がありますが、トランプはそれを土足で踏みにじったということです。

 この米国の決定に対し、イスラム諸国、アラブ諸国は全く尊重する気はないでしょう。米国の決定は憤慨を招くが、無視もされるでしょう。米国の中東での国際的影響力は減退せざるを得ません。

  
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