古都を感じる 奈良コレクション

2010年12月21日

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 それから4ヶ月が過ぎた11月21日、滋賀県立近代美術館の展覧会に行ったら、思いがけず神野寺の菩薩半跏像がおられた。4㍍もある金勝寺〔こんしょうじ〕の大きな軍荼利明王〔ぐんだりみょうおう〕像の前、小さな菩薩半跏像が、ケースのなかで、やはり何かを考えている。

 小さな仏像が、やまぞえ小学校のこどもたちと重なって、いとおしかった。

 私はこの展示風景をやまぞえ小学校のこどもたちにみせてあげたいと思った。でもこの日が展覧会の最終日。展覧会は巡回するけれど、大きな軍荼利明王像は、お寺から遠い他の会場へは行かない。この光景は飛鳥時代以来初めて作り出されたもので、たぶんもう二度と見られないだろう。展覧会とはそういうもの。だから担当した展覧会の最終日には、すべてのお客さまが帰ったあと、誰もいない展示室を、もう二度と(少なくとも私が生きているうちにはもう二度と)作られることのない空間を、寂しさに耐えながら、私は黙って徘徊する。

 もう決して見ることができないこの光景。これをこどもたちに見せてあげるには写真を撮るしかないが、もちろん勝手には撮れない。しかも、撮れる日はきょうしかない。

 迷った末に、私は学芸課長の高梨純次さんを呼んでもらった。お会いしたことはあるが、特別に親しいわけではなく、そういうことが苦手な私は随分ためらったが、今のこの瞬間がお願いできる最初で最後の機会であることは疑いなく、思い切って呼んでもらった。外に出ておられるということだったが、待たせていただいた。

滋賀県立近代美術館の展示室。
金勝寺・軍荼利明王像(左)と神野寺・菩薩半跏像(右)。
撮影:高梨純次氏

 やがて戻って来られた高梨さんは、きっと驚かれたと思うが、快く引き受けてくださり、翌日にはさっそく写真を送ってきてくださった。素敵な写真だった。

 私は毎日新聞の奈良版にエッセーを連載しており、そこにそういう話を短く紹介したところ、数日後にやまぞえ小学校のこどもたちから感想文が送られてきた。

 「わたしのことを覚えていますか。奈良の大仏と神野寺の仏像を答えた者です。〈神野寺の仏像の表面がザラザラしているのは火事にあったから〉と答えた理由は、広島の原爆資料館にあった熱風をうけた瓦の表面がザラザラしていたからです」

 「ぼくは神野山の近くに住んでいて、神野寺に近いです。ぼくたちのためにわざわざお話をしてくださって本当にありがとうございました」

 「山添村の北野天神社には神さまがいろいろまつってあるのでオススメの場所です。ぜひ行ってみて下さい。心がきっとおちつきます」

 「時間があれば、山添村そしてやまぞえ小学校へぜひ遊びに来てください。また歴史のお話などをたくさん聞かせてください。6年生20人そろって待っています。私達と自然が待っていますよ」

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