世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月22日

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 英エコノミスト誌が、トランプ政権のWTOの存立を脅かす言動はリベラルな世界秩序に対する脅威だという論説を書いています(電子版12月7日)。論旨は次の通りです。

(iStock.com/colematt/stockakia/ Planet12-Fred/nataka)

 WTOは過去20年その使命である貿易自由化で大きな仕事を出来ないでいる。2015年、ドーハ・ラウンドは静かにその命脈を断たれた。米国は、トランプ政権の下で、WTOへの長年の苛立ちを攻撃へと転じた。米国は、中国はその重商主義的政策の法的カバーにWTOを利用して来たと思っている。米国はWTOが問題の解決を見出すのを助けるのではなく、ユニラテラリズム、批判的レトリック、官僚主義的サボタージュの組合せをもってWTOを毀損することを選択した。このアプローチは間違いである。WTOを批判することは容易であるが、WTOは世界経済にとっても米国にとっても枢要である。

 トランプ大統領は、中国に対する45%の関税、WTOやNAFTAから離脱といった選挙戦中の脅かしを実行してはいないが、依然として貿易をゼロ・サム・ゲームと見ており、二国間貿易収支を神聖視している。二国間の取引であれば、米国は常に勝てると思っている。その重みを利して市場を開放させ、あるいは広い利益を追求する上で貿易を駒として使えると思っている。

 従って、トランプ政権は多国間貿易体制に狙いを定め、WTOをあからさまに批判する。WTOを回避し、国内法を引っ張り出して、鉄鋼、アルミ、ソーラーパネル、洗濯機などの輸入品を一方的に調査する。WTOを使えば実務的な問題に転化することで紛争を隔離出来るが、この種の行動は問題を政治問題化する。

 三番目の攻撃のやり口として、WTOに対する常駐代表(大使)を任命していない。また、不可解な手続き論を持ち出して、WTO紛争解決機関の上級委員会委員の空席を埋めることを妨げている。既に審査待ちのケースがたまっているが、空席が埋められないと、紛争解決の体制が崩壊するリスクがある。そうなると、WTO自体が崩壊しかねない。

 トランプ政権がどうしたいのかは不明である。EUが中国を「市場経済国」と認定していないことについて、中国が不服を申し立てたが、米国はEUを支持している。ここでは、米国はWTOの有用性を認めているように思える。となると、米国は圧力をかけることでWTOを改革したいのかも知れないが、米国はどう改革したいのか何もいってはいない。

 米国に袖にされたからといって、WTOは崩壊はしないかも知れないが、惨事である。WTOは戦後米国が主導して来たリベラルな世界秩序というビジョンに根ざしている。それは合意されたルールに基づく枠組みの中で殆ど全ての国を結び付けている。アメリカ人には、WTOは国家支配の中国経済を公正な貿易体制に縛り付けることに失敗した、と論ずる向きがある。中国の市場改革には失望させられるが、中国の世界への統合による混乱をWTOは軽減したともいい得る。今後も中国にルールに従ってプレーさせるよう努めることが最善の途である。貿易戦争に勝者はない。

出典:‘The WTO is under threat from the Trump administration’(Economist, December 7, 2017)
https://www.economist.com/news/leaders/21732108-america-increasingly-resorting-bilateral-trade-measures-wto-under-threat

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