前向きに読み解く経済の裏側

2018年1月22日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

他業界でも同様のことが起きるかも

 宅配便業界が値上げで得た利益で賃上げをし、他業界から労働力を奪ってくると、今度は他業界の労働力不足が一層深刻化します。そうなると、他業界でも同様のことが起きるかもしれません。

 労働力不足が深刻化した業界は、賃上げをせざるを得ず、その分だけ売値を引き上げざるを得なくなる、というわけです。もしかすると、「値上げをして客をライバルに押し付けないと、客が捌き切れない」といった「値上げ競争」が他業界でも広がるかもしれませんね。

 問題は、賃上げ競争がどうなるか、ということです。各社が労働力不足を賃上げで補おうと考えた時、何が起きるのでしょうか。これを考える際には、「自社だけが賃上げをした場合と全社が賃上げをした場合で影響が大きく異なる」ことに注意する必要があります。自社だけが賃上げをすれば、比較的容易に他社から労働力が奪って来られるでしょうが、他社も賃上げをした場合には、そうは行きません。

 問題は、「今の賃金なら働きたくないが、賃金が上がるなら働いても良い」と考えている潜在的労働者が多くなさそうだ、ということです。各社が一斉に賃上げをしても、働く労働者の数が増えなければ、各社の労働力不足は解消しません。

 「時給が上がると働く時間が減る人」の存在にも注意が必要です。「年収の壁」を意識して働く専業主婦のパートや、生活費を稼ぐための学生アルバイトなどは、時給が上がると労働時間が短くなって、かえって世の中の労働力不足を加速してしまう可能性さえもあるわけです。価格が上がると供給が減るとしたら、皮肉なことですね。

 「働き方改革」の本格化と時期が重なると、これも労働力不足を加速しかねません。各社が「残業が少ない我が社へ来てね」という残業削減競争を繰り広げると、日本経済全体としての労働力不足は深刻化するからです。

 そうなると、各社が省力化投資に注力することはもちろんですが、それだけでは足りないかもしれません。そうなると、ますます「値上げ競争」が現実的になってきます。

 消費者としては、値上げ競争は嬉しくありませんが、恵まれないワーキング・プア(正社員を希望しながらも非正規労働者として生計を立てていて、長時間働いているのに収入が低い人)の生活がマトモになり、ブラック企業が(社員が転職先を見つけて辞めて行くため)存続できなくなる、ということは望ましいことなので、高い見地からこうした動きを歓迎しましょう。

P.S.

 今年は「値上げ競争の時代」が流行語になるような予感がしていますが、どうなりますことか(笑)。

  
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