韓国の「読み方」

2018年1月15日

»著者プロフィール
著者
閉じる

澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

実は熱くなっていない韓国世論

 4年間のソウル駐在を終えて3年前に帰国した私が面食らったのが、慰安婦問題に対する日韓両国世論の温度差である。日本の方がはるかに「熱い」と感じられた。韓国にも熱心な運動家はいるし、世論調査で聞かれれば「慰安婦問題に関する日本の対応はけしからん」という趣旨で答える人が圧倒的に多い。だがそれは「聞かれれば、そう答える」という程度だ。メディアも大きく取り上げることが“お約束”となっているが、実際に多くの人が強い関心を持っているかと聞かれれば首をひねらざるをえない。韓国における慰安婦問題というのは、その程度の存在だ。日本でもそういった事象を挙げることは難しくないから、珍しい現象とまでは言えない。

 分かりやすいバロメーターが集会への動員人数だ。朴槿恵前大統領の退陣要求集会を比較の対象に持ちだすのは適切だと思わないが、韓国では政治的集会にも多くの人が集まるという社会風土は分かるだろう。昨年には在韓米軍への最新型ミサイル防衛システムである「THAAD(サード)」配備に反対する集会が数万人以上を集めて何回も開かれた。労働運動などでも数万人単位の集会は珍しくないし、旅客船セウォル号沈没事故に関連する集会でも数万人というのは驚かれない。

 ところが、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が毎週水曜日昼に日本大使館の前で開く慰安婦問題での抗議集会への参加者は多くて数百人である。康京和外相が「日本に再交渉を求めない」と発表した9日は火曜日で、文氏の記者会見は翌10日の午前中だった。それでも「日韓合意破棄」を求めた10日昼の集会参加者は約300人だったという(朝日新聞1月11日朝刊)。

 韓国の世論調査会社・リアルメーターが11日に発表した調査結果も興味深いものだった。文在寅政権の方針を「事実上の合意破棄」とみて支持する人が63・2%、「再交渉を求めなかったのは良くない」という人が21%だった。

 評価する方の設問を全訳すると「既存の慰安婦合意を事実上破棄したもので、今後の韓日外交関係を考慮すると良い決定だった」だった。頭が混乱してくる設問だったので、同社に趣旨を聞いてみると「事実上の破棄という表現は、再交渉要求はしないけれども、元慰安婦の意見を聞いて今後の措置の水位や速度を調節していくという意味だ」という答えだった。

 すっきり理解できたとは言い難いのだが、おそらく電話調査に答えた人もあまり変わらないだろう。とにかく「合意に否定的な見解を示しつつ、対日外交を難しくする再交渉の要求はしない」という文政権の姿勢を支持する人が6割強と考えればいいのではなかろうか。注目すべきは、与党支持者の81%が文政権の対応を支持したことだ。進歩派である与党支持層は、挺対協のような運動団体が支持を期待する層でもある。挺対協には気になる数字だろう。

 ちなみに韓国内の保守派は日韓合意を維持すべきだと主張し、文政権のあいまいな姿勢を批判している。リアルメーターの調査では、保守派も文政権の対応を支持する回答の方が多かったのだが、これについて同社は「韓日関係を考慮して再交渉の要求をしないという部分を評価したのではないか」と話している。
 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る