2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月25日

 南アジアは、建国以来対立関係にあるパキスタンを除き、インドの勢力圏でした。それは、地域の他の諸国に比べ、インドが圧倒的な大国であったためです。

 それが近年の中国の対外進出により一変しました。特にインド洋を中心とする海上交通路は、中国の中東からの石油輸送のシーレーンであることもあり、中国の関心が高まりました。いわゆる「真珠の首飾り作戦」は、インド洋を通るものであり、最近では一帯一路の一路がそうです。

 中国は、解説記事が指摘する通り、伝統的なインドの勢力圏に属する各国に積極的に取り入っています。

 中国の武器は資金です。個別の融資に加え、2014年末に設立したシルクロード資金(400億ドル)、2015年に発足したアジアインフラ投資銀行(資本金1,000億ドル)を使って港湾の整備などを積極的に行おうとしています。インド洋地域の国はほとんどが貧しく、中国の融資は魅力的です。例えばモルディヴは、島の一つを中国企業にリースし、他の中国企業のいくつかに大規模なインフラ計画を認めていると言います。モルディヴの負債の75%は中国とのことで、今やモルディヴを支えているのは中国という状況になっています。

 南アジア、インド洋地域で中国の影響力、権益は拡大しており、インドは守勢に立たされています。

 懸念すべきは、このような中国の海上権益の増大が、通商面にとどまらず軍事面にまで及ぶ可能性があることです。

 既に中国はジブチに海軍基地を建設しています。昨年6月に米国防省は、中国はジブチの後パキスタンに軍事基地を建設する可能性がある、と述べています。 

 解説記事は、インドは中国の攻勢を受けてインドの勢力圏を維持するのに苦労してきたが、今後はインドの政策が変わるのではないかと示唆しています。

 しかし、インドが中国に対抗するのは容易ではないでしょう。何よりも中国の武器である資金援助について、インドの援助は効率が悪いという前に、規模の面で中国にかなわないでしょう。

 記事は、インドがこれまでインド同様中国の拡張を懸念する他の国々との協働を避けてきた、と言いますが、この点はすでに変わりつつあります。日本もこれまで以上にインドとの協働に努めるべきでしょう。

 また、南アジアには「南アジア地域協力連合(SAARC、サーク)」があります。これは印パの対立に加えて、インドが圧倒的大国であることにより、ASEANに比べてあまり機能していませんでした。中国の挑戦を受けている今、インドがサークの有用性を見直すことが望まれます。

  
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