この熱き人々

2018年2月21日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 大自然の中で方向を失っている少女と、少女にしか見えないらしい道案内してくれる犬と、神社の狛犬との何とも不思議な結び付き方である。人や場所や大事なものを守る守護獣。辞書では、人知では測り知れない神秘的な尊さを備えている獣ということになるのだろうが、小松が将来の作品テーマとなる神獣を言葉以前に意識したのはこんなに幼い頃だったわけだ。その頃から絵を描くのが好きで、小学校、中学校と美術クラブに属し、大人になったら画家になると語っていたという。

 「長野には美術館や小さなギャラリーがたくさんあって、絵が好きだった母がよく連れて行ってくれたんです。何でこの人たちの絵はここに展示してもらっているんだろうと思って母に聞いたら、絵が上手いだけじゃダメ、展示してもらえるのは本当にすごい人たちなのよって。じゃ、私もそういう人になりたいって思ったんですよね」

 美術館に作品を展示してもらえる人になるというストレートな夢から始まった絵の道は、高校の美術部から女子美術大学短期大学部へと続いた。ごく普通の流れのように見えるが、その頃に描いていた絵はいささか「普通」とはかけ離れていたようだ。

 たとえば「うさぎの裸」という高校時代の作品は、モノクロで描かれた、ウサギのエックス線透視画像のような骨格。どこか不思議で稀有な感性を思わせる作品が多い。

 「短大では入学後に日本画、洋画、彫塑などいろいろ体験して専攻を決めるんですが、銅版画を経験した時、こういうのやりたかったんだ、と思って迷わず選びました。子供の頃ヨーロッパの古い絵本で見た線がずっと気になっていて、銅版画の肉厚な線を見たとき、探していた線だ! と思って」

 研究室に残って勉強を続けていた20歳の頃に完成させた、祖父の死が題材の作品「四十九日」は、画面の半分以上を覆う黒い塊のような牛らしき怪物から、ラクダに乗った祖父の魂がウサギに導かれてもう少しで逃げ切れそうという構図のモノクロの銅版画。

 「祖父を看取った時、魂がその身体から抜けるのが感じられたんです。ふわふわしたエネルギーの塊みたいなものが空中に漂っていて、ほかの空気とは違う。うちでは動物をいろいろ飼っていて、動物の生死を間近で見てきて、死というものに興味がありました」

 こっちの世界とあっちの世界の狭間。こっちの世界を守るのが守護獣で、あっちの世界は神々のエリア。小松の今に通じるテーマがすでにはっきり立ち上がっている。

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