2024年4月24日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2018年1月25日

 昨年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の30語にノミネートされた「AIスピーカー」。最近のビジネス界で関心を集めているトピックの1つは「AI(人工知能)」だろう。昨年、GoogleDeepMindが開発した「アルファ碁」は、トップ棋士柯潔氏との3番勝負で3局全勝をあげるほどに進化している。しかし、それだけ進化している人工知能は、なぜ我々と同じように会話することができないのか。

 人工知能を通して、人間が言葉を理解する仕組みを子どもでもわかりやすく描いたのが川添愛氏の『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社)だ。今回、川添氏に人工知能はどうして言葉を理解できないのか、また今後人工知能に我々が支配されてしまうのか、などについて話を聞いた。

――本書は、「働きたくないイタチ」たちが、自分たちが楽をするために「こちらが言うことをなんでもわかって、なんでもできるロボット」を作ろうとしますが、その過程を通じて、人間が言葉を理解するというのは非常に複雑なんだな、とあらためて思いました。そもそも、このようなテーマで執筆したキッカケは何だったのでしょうか?

川添:以前、一般の方から「人工知能が、囲碁や将棋でプロに勝てる時代だから、言葉を話すくらいでは驚かない」「なぜ子どもでもわかるような言葉を機械がわからないのか」と言われ、言葉を人工知能に理解させることは簡単なことだと思われているのだなと感じたことがありました。

 そのほかにも、理論言語学を専門としていると言うと「何カ国語話せるのか」などと聞かれたりすることがたびたびありました。理論言語学は、人間が言葉を話す能力について科学的な理論を立て、検証する学問ですが、そのあたりが理解されていないことにモヤモヤする気持ちを抱いていました。

 そんな時に、出版社から「ものの考え方や、言葉の使い方についての本を」というオファーを頂きました。そこで、研究者が取り組んでいる「言葉の複雑さ」がどのようなものかを、人工知能と比較することで一般の方にもわかりやすく伝えられればいいなと思った次第です。

――ずばり、なぜ人工知能が言葉を理解するのは難しいのでしょうか?

川添:その理由を短く説明するのは難しいので、くわしくは本を読んでいただければと思いますが、一番大きな理由は、私たち自身がどのように言葉を理解できているのか、またそもそも言葉の理解とは何かが解明されていないことにあります。それは非常に難しい問題で、解明にはまだ時間がかかると思いますが、それが分からないかぎり、本当の意味で「人工知能が人間と同じように言葉を理解できるか」を私たちが判断することはできないでしょう。今の人工知能の多くは、人がどのように言語を理解しているかという問題とは別個に、言語の関わるさまざまな作業の中で機械が「言葉を理解している人間の行動」を再現する方針で開発されています。つまり、私たちの言語能力を丸ごと機械に置き換えているのではなく、会話や質問応答、画像の認識などといった個別の課題ごとに、うまく対応できる機械を作っているのです。その具体例として、言語理解の最初の課題である音声認識、つまり「話し言葉の聞き取り」について説明してみます。


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