2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2018年1月26日

 ギャンブルには数学、心理学、経済学、物理学がすべてかかわっている。したがって、ランダムな事象(あるいは、見たところランダムな事象)に関心のある研究者がギャンブルに注目するのは自然なこと、と著者は語る。

 ルーレットのおかげでポアンカレはカオス理論のもととなる考えをまとめ、ピアソンは新しい統計的手法を検証できた。ウラムの場合には、カードゲームが、3Dコンピューターグラフィックスから病気の発生の分析までありとあらゆるものに使われているモンテカルロ法の考案に結びついた。ゲーム理論は、ノイマンによるポーカーの分析から端を発している。

 ノイマンとブラフ(はったり)、ナッシュと最適戦略、水爆開発で編み出されたマルコフ連鎖モンテカルロ法と競馬の予測モデルとのつながりなど、「へえ!」とうなるトリビアが満載で、とにかく面白い。

 リッツホテルの高級カジノに現れた謎の男女3人組、ルーレットで大儲けした学生コンビ、ブラックジャックで大金を稼いだMITの学生チーム、宝くじでの膨大な枚数のくじ購入とへとへとになるほどの管理の手間・・・・・・などなど、実話ならではの苦労話や失敗、成功話はどれをとっても痛快だ。

 「世慣れたラスヴェガスのギャンブラーが攻略法を思いついたわけでは断じてありません。学問的知識と新しいテクニックを身につけた、外の世界の人間が乗り込んできて、それまで暗闇だった所に光を当てたときに、初めて成功がもたらされたんです」

 ブラックジャックと競馬に賭けて財を成したビル・ベンターのこの言葉に、痛快さの理由が隠されている気がする。

賭けは、私たちの生活につねにある

 本書を読んで、ギャンブルに対する私のかび臭い考えは一掃された。「モンテカルロのカジノから香港の競馬場まで、完全無欠の賭けにまつわる物語は科学の物語」なのだ。

 そして今やそれは、最新科学の物語になっている。

 <研究者たちはポーカーを利用してAI(人工知能)の研究をし、まるで人間のようにブラフをかけたり学んだり不意打ちをしたりすることができるコンピューターを作り出す。(中略)一方、高速アルゴリズムが、企業が自動で賭けを行なったり取引をしたりするのを助け、相互作用の複雑な「生態系」を作り出し、それが新しい研究方法の数々を実現させてきた。>

 <スポーツアナリストは、より的確なデータとより高速のコンピューターのおかげで、もはやチームの試合結果を予測するだけではなくなっている。選手ごとに役割を切り離し、偶然性とスキルの寄与の度合いを測定する。研究者たちはポーカーからベッティングエクスチェンジまで調べ、人間の行動と意思決定についての理解を深めつつあり、そうすることで、より効果的なギャンブル戦略を次々に考え出している。>

 競馬場やカジノに行かなくても、賭けは、私たちの生活につねにある。

 <運は私たちのキャリアや人間関係全般にかかわっている。私たちは隠れた情報に対処したり不確実な状況もうまく切り抜けたりしなければならない。リスクと見返りのバランスを取る必要がある。楽観主義は確率と照らし合わせてみなければならない。>

 ならば、実験によって導かれ、厳密さと探求に支配された「賭けの科学」の一端を、知っておいて損はあるまい。
 

  
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