科学で斬るスポーツ

2018年2月2日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

強いメンタル、一回り成長

 羽生のけがは懸念材料であるが、それをはねのけるほど練習、準備、スケートにかける思い入れ、メンタルはかなり強くなった。

 ソチ五輪の後に、羽生の金メダルの裏にスタミナをつけるための食事について解説した(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3826)。この4年間、食事以外にも体幹を鍛え、けがをしにくい体作りに取り組み、モチベーションの維持などにも苦労はあっただろう。勝って当り前、負け続ければ「終わり」という烙印を捺される、五輪金メダリストという重圧と向き合ってきた。逃げることなく果敢に練習し、さらに準備を続けてきた。

 その一端が、ソチ五輪金メダル獲得をサポートした城田憲子さんの近著『日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦』(新潮社)に書かれている。

 同書によれば、城田さんは、ソチ五輪後、羽生の4年間の重圧と、身体にかかる負荷の大きさを考え、躊躇することなく「一年間の休養」を提案したという。多種類の4回転ジャンプ時代の突入を考慮してのことだった。

 これに対し羽生は「でも、休んだら駄目なんですよ、城田さん」と答えたという。プレッシャーと向き合う覚悟を感じたという。

 ルッツの練習で右足首の靭帯を損傷したのは、名伯楽のブライアン・オーサーコーチの「4回転の種類を増やす必要はない」という反対を押し切ってのことだった。先ほども触れたが、ルッツなしのトウループ、サルコー、ループで十分な得点は十分に稼げるからだ。コーチの指導を振り切ってルッツに挑戦したのも「さらなる高みを目指す、自分への挑戦でもあった」からだ。

図10 羽生のイラストイメージ

 羽生にとって、4年間は短いようで長く、長いようで短かっただろう。フィギュア男子のSPは2月16日、フリーは2月17日。20歳と若く伸び盛りの宇野は、大会を経験するたびに技が上達している。1月の全米選手権を制したネイサン・チェンは若干18歳。315.23の高得点をマークするなど4回転ジャンプの精度を飛躍的に高めている。五輪は厳しい戦いになることは間違いないが、羽生にとって宇野の頑張りは、自らを発奮させる材料となっている。羽生自身も23歳と若く、「まだ、負けられない」と思いも強いことが推測される。金メダル候補としては、ほかにも中国の金博洋、フェルナンデスらも侮れないだろう。

 五輪に臨む羽生のプログラムで、SPは、ジェフリー・バトル振り付けのショパン作曲の「バラード第一番」の調べにのる。フリーはシェイ=リーン・ボーン振り付けの「SEIMEI」。

図11 宇野の演技イメージ

 この二つは、2015年に300点台の得点を記録し、高得点時代を切り開いたNHK杯の時と同じプログラムだ。同じプログラムではあることに危惧する声もあるが、「何よりすべてのエレメント(要素)を支えるスケーティングスキルが、ソチ五輪に比べ、格段にレベルアップ」(「金メダルに挑戦」)しており、問題はない。

 けがを癒し、雑念にとらわれず、冷静な滑りができれば確実に得点は向上するだろう。その先には、ディック・バトン(米国)以来66年ぶりの金メダル連覇がある。羽生、同じく金メダルが期待される宇野、さらには田中刑事の滑りに日本だけでなく、世界が注目する日が待ち遠しい。

■修正履歴:
2ページ目でルッツジャンプをエッジ系と記載していましたが正しくはトウ系でした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正しております。(編集部 2018/02/02 18:22)

  
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