東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年12月28日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

 173て数字自体、「あり得ない」と思った。で、待てよ304て…、て考えたとき、改めてあの数字の凄さがわかりました。

 「THE MOVIE2」公開のときですけど、配給元の東宝さんが、封切り初日以降の観客数について「千と千尋」の何割まで行ったか毎日教えてくれる。

 出足は良かったんですよ。90%行ったとか、80%だったとか。で、毎日そんな報告をくれるんだけど、だんだん、と言うかみるみる、「千と千尋」との差が開いていくわけ。そのうちせいぜい60%行くか行かないかくらいになったとき、「いいです、もう空しくなるからやめましょう」って言ったくらいでした(笑)。

浜野 一方はアニメ、子供もたくさん来たっていう、違いはあるけどね。

 でも、亀山さん、これは却って失礼に当たるかもしれないけど、「千と千尋」が約304億円、「タイタニック」が、洋画の実写で国内興行収益262億円ですよ。それ考えると、実写の邦画で「THE MOVIE2」が打ち立てた173億円強っていう数字、多分この先破られないんじゃないかと思います。

 邦画史上最高って、常に言い続けられる可能性ある。

亀山 うはははー。

浜野 それ、気持いいでしょ。

亀山 いやっ、あのねー、だからその、浜野先生からそう言われても、映画を変えたとかそんな意識、別に謙遜してるんじゃないですけど、ない。まったくないんです。

 角川さんと比べてくれても、正直なところ、嬉しいというよりも、違和感。

 だって今年の「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」は興行収入73億ですから。「THE MOVIE2」と比べてきっかり100億円剥げ落ちてる。

 その100億円て、どこ行った、ってことですよ。だから173億っていうあの数字、自分たちの力でつくったとは到底思えないんです。それは僕らがテレビというメディアで育っただけに余計思うことなのかもしれないけど、映画の力だけじゃないよな、ブームだよ、「社会現象」だよそりゃ。その中で、あの映画って存在しちゃったんだよな、っていう…。

 思い返せばシネコンがどんどん建ってた時期、インターネットが爆発的に普及していってた時期、そういうものとも重なっていましたからね、当時は。

 それなのに、100(億円)落としたじゃないかって言われることへの、ものすごい恐怖心。テレビの人間って、「飽きられること」にいちばん恐怖を抱くんですね。「踊るって、飽きられてんの、もう」っていう内心の声、ですね、僕らにつきまとうのは。

 いまこの時期の73(億円)て凄いじゃない、という言い方はできます。けれど、だからといって喜んでいられないわけです。

浜野 なるほどね。映画を変えた2人の1人は「飽きられること」を恐れている、と。

亀山千広氏(左)「このシリーズが叩き出した興行収入は、映画がブーム(社会現象)と化した結果、得られた数字」。日本映画に卓識を持つ浜野保樹教授は、「邦画が洋画の業績を逆転したのが『踊る大捜査線』シリーズ」と評価する。

客が求めるのは新味か、偉大なるマンネリか

亀山 自分なりに、100落としたことへの自覚はないわけじゃないんですよ、実を言うと。
というのは、和久平八郎という役柄を演じてたいかりや長介さんが亡くなった。そのせいで、あまりにいろんなことを変えすぎたかな、という反省がある。

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