東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年12月30日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

浜野 でもフジに入ったら、やっぱりかなわないなと思う先輩がいた…

亀山 杉田さん(「北の国から」シリーズ演出の杉田成道)とか、ですよね。「オレにはあそこまで役者を追いこんでつくるなんて無理だ、オレだったらどっかでオッケーって言っちゃうよな」と思いました。

 そのうちドラマをいろいろやって、その気になれば演出できるようにはなるんだけど、どうせなら「監督作品」なんて1本もない方が潔いか、という心境になりました。

産業としての夢が、若手の意欲につながる

亀山 いまの学生はねえ、機材がいいし、簡便だから、作品撮ってる数が半端じゃないでしょ。

 年に1回、学生映画祭というのをわが社が後押ししてやってるんですけど、作品みると上手い。だけどねえ、浜野先生も今度見に来てください、「若いよなあ、こいつら」と言いたくなる作品が出て来ない。

 僕らが見たいのは、「発想一発。わかった、やりたかったのそれなのねー」って手を叩きたくなるような作品なんだなあ。技術なんか後からついてくんだから。

 韓国やベトナムの留学生は、先生たちに言わせると本気度が違うって言うんですけど、やっぱり作品もいい。いい意味でこぎれいにまとまってなくて。

浜野 そこでも諦めがあるんですよね。日本人学生にはね。「作りたいし、作れるんだけど、どのみち監督で食ってはいけないだろう」っていう。若いうちから見切りをつけている。

亀山 だからさきほどのお話のように、産業として食っていける意味での映画産業なんて、日本にはないんですね。

 確かにフジテレビで映画は撮っているけれど、フジテレビに入らなくちゃ映画は撮れないというのだと、門は狭いでしょ。才能がただ才能として伸びる土壌は残念ながらない。

 だいたい、映画の興行市場規模は何年も2000億円前後で全然伸びていない。つまり決まったサイズのパイを食い合っているだけっていうゼロサムになってる。そこも、邦画が洋画を追い抜いたって言われても、あんまり手放しで喜べない理由ですね。

亀山千広氏「日本人の若い子たちは技術や機材に頼るんじゃなく、もっと若い感覚や発想を大切にして映画を作ってほしい」。浜野保樹氏「監督業では食えないだろうって、最初から諦めるのではなくね」

 成長市場でシェア伸ばしたよって言われたんなら、とても名誉なことなんですが、もともとテレビの人間として映画に期待をつないでいた訳っていうのも、テレビだと、視聴率は理論上100より上に行かないんですよ。

 視聴率の競争っていうのが、100って大きさの決まったパイの奪い合い、ゼロサム・ゲームなわけです。プラスサムの世界に入っていきたいっていうのが、僕らの強い念願でね。映画はそれが実現できると思った。

 でもよく考えたら、僕ら映画に携わる人間がもっと頑張って、映画の飽和状態を破っていかないといけないんですね。ゼロサムにならないように。

 映画だって100という上限がない訳じゃない。日本国中にあるスクリーン数を数えて、そこにある椅子を数えて、それを合計したら、そこが満杯の到達点ではあるんです。でもそのキャパに、1日5回映画をかけて、もしそれが全席売れたとしたら、1兆4000億円とか、1兆5000億円っていうマーケットになるはず。なのに、現実の稼働率はそれに比べたら20%にも達していない。映画はほんとはまだまだプラスサムができる世界なはずです。

(構成・谷口智彦)

亀山 千広(かめやま・ちひろ)
フジテレビ取締役、映画事業局長。
1956年、静岡県生まれ。80年にフジテレビ入社後、ドラマのプロデュサーとして、「あすなろ白書」「ロングバケーション」「踊る大捜査線」などを手が ける。99年、04年には、「踊る大捜査線 THE MOVIE」「踊る大捜査線 THE MOVIE2」で第18回、第23回藤本賞を受賞。10年7月から公開された第3弾「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」も大ヒットを記録した。
12月11日から公開された『ノルウェイの森』は、松山ケンイチ、菊池凛子、水原希子らが出演。世界50カ国・地域での放映が予定されており、高い期待が 寄せられている。

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