2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月15日

 一方、トルコ国営放送は、電話会談でエルドアンは「テロとの戦いにおいて、分離主義テロ組織PKKのシリアにおける派生組織PYDおよびYPGへのアメリカからの武器支援は終わらなければならない」と述べた、と報じている。

 エルドアンは、電話会談後も攻撃の手を緩めることなく、アフリンの次はシリア北部、アフリン東方のマンビジュに対する攻撃も明言した。マンビジュは、クルド人主体のシリア民主軍と米国の軍事顧問の拠点である。これが実行されるようなことがあれば、ともにNATO加盟国である米国とトルコとの武力衝突が現実のものとなりかねない。

 一方、米国は、ティラーソン国務長官が1月17日にスタンフォード大学・フーバー研究所で行った講演の中で、シリアへの軍事的、外交的プレゼンスを継続すると明言した。その目的について、ISISの打倒をより確実にすること、国連主導でアサド後の統一シリアを実現すること、シリアにおけるイランの影響力を低下させ所謂「シーア派の回廊」を阻止すること、などを挙げている。シリアではクルド人がISIS打倒に役立ってきた。今後のシリア政策においても、特に対イランの観点から有用と思われ、米国がシリアのクルド人を俄かに見捨てるとは考え難い。シリア民主軍がロシアへの接近を試みているとの指摘もあるが、クルド人をめぐる米国とトルコとの対立の火種は残り続けるとみられる。

 ただ、クルド人がトルコに脅威を与えないことを、米国が保証することができれば、両国間の緊張が緩和される可能性はあると思われるし、そうする必要がある。トルコ、米国、クルドの間での話し合いが望まれる。

 なお、今回ティラーソンが明確にしたシリア政策について、ワシントン・ポスト紙は1月22日付で“Tillerson tells the truth about Syria”(ティラーソンはシリアにつき真実を語った)と題する社説を掲載してこれを強く歓迎し、ニューヨーク・タイムズ紙は1月19日付けで“Syria Is Now Mr. Trump’s War”(シリアは今やトランプの戦争)と題する社説を掲載し、終わりのない戦争になるなどと批判している。後者は敗北主義的、孤立主義的な主張であり、前者の評価が妥当であろう。

  
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