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2018年2月7日

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アラスター・リートヘッド、BBCニュース、アフリカ特派員

世界的な象牙やサイの角の違法取引を追跡していた世界有数の調査員、エズモンド・ブラッドリー・マーティン氏が4日、ケニアの首都ナイロビで刺殺されているのが見つかった。

マーティン氏は各地の厳しく危険な場所で、潜入調査を繰り広げていた。象牙市場を写真や映像で記録し、密輸業者と話し、闇市場の価格を計算し、世界中の動物保護の政策決定者の指針となっていた。

マーティン氏はここ数年、協力者のルーシー・ビーン氏と共に象牙やサイの角の買取業者に扮し、中国やベトナム、ラオスへ出向き、外国人がほとんど足を踏み入れないような場所を訪れていた。

奇妙な組み合わせとも言える2人は、中国人が経営するラオスのカジノでギャングや麻薬王のほか、人間や銃や野生動物を扱う密輸業者の間を渡り歩き、データを集めた。

ゾウの保護団体「Save the Elephants」の資金提供をもとにした2人の調査で、ラオスの象牙市場が世界で最も急速に成長していることが判明した。

2人のミャンマー調査旅行から帰ったばかりで、マーティン氏は調査内容をまとめている最中に殺害された。

警察は殺害の動機を調べている。マーティン氏はナイロビ郊外のカレン付近にある自宅で、首をナイフで刺されて死亡した。

侵入盗が失敗して殺人に至ったかのようにも見えるが、警察はマーティン氏の仕事との関連を調べている。

2016年のBBCインタビューで、マーティン氏はここ5年、アフリカで密猟が増えた理由について、ゾウの生息地域の多くで管理が不適切だからだと指摘していた。

「おそらく汚職は、ゾウの密猟が増えている唯一最大の原因だ。あらゆる次元で、汚職が横行している」

「ここ数年で、多くの中国人がアフリカに移り住んだ。アフリカで働く中国人は、いまや約100万人かそれ以上だろう」

「アンゴラやナイジェリア、エジプト、スーダン、それにモザンビークなどで、巨大な象牙の違法市場が公然と存在している。そこで売られている象牙のほとんどを、中国人が買い上げている」

公然と開かれていた違法市場の多くは、マーティン氏の尽力を得て閉鎖された。それによって、野生動物犯罪への取り組みが不十分な複数の政府の注目を集めた。

中国は昨年いっぱいで国内の象牙市場を閉鎖した。これにはマーティン氏の調査活動の貢献が大きいと言われている。1993年に取引が禁止されたサイの角についても同様だ。

おしゃれな着こなし

際立つ白髪に、おしゃれなスーツ。胸ポケットには、カラフルなハンカチ。少しぎこちない歩き方で部屋に入ってくるのが常だった。

物静かな口調の人だったが、野生動物の違法取引についてのデータ収集に全精力をかけて集中し、没頭していた。

米ニューヨーク生まれのマーティン氏が、初めてケニアを訪れたのは1970年代のことだ。象牙目当てに、ゾウが大量に殺されていた。

そこで、「Save the Elephants」の創設者、イアン・ダグラス=ハミルトン氏と出会う。45年来の友人を失ったのは、個人としても仕事上でも、ひどい打撃だとダグラス=ハミルトン氏は言う。

「エズモンドは、動物保護にとって偉大な陰の英雄の1人だ」

「象牙とサイの角の市場について、彼の仕事は実に緻密で、世界で最も行きにくく危険な場所で行われることが多かった。しかも、ほかの人間なら彼の半分の年齢の若者でも疲弊しきってしまうような、実に過密な日程の作業ばかりだった」

「Save the Elephantsと共に過ごした18年間、エズモンドは研究パートナーたちと共に、合法と非合法両方の象牙市場について、貴重な報告書を10本まとめた」

親友で同僚のダン・スタイルズ氏は、1999年に夕食の席で、マーティン氏からアフリカ大陸全体の象牙取引市場の調査に加わるよう説得されたと話す。

「おかげで死にかけた。生き延びたのは運が良かった」。スタイルズ氏はうれしそうに笑いながら、振り返る。

「あんなのは初めての経験で、それで自分の人生の針路が変わった」

スタイルズ氏はそれまで狩猟民族のコミュニティーに関わっていたが、象牙市場調査で2人はアフリカ大陸全体を旅した。売りに出されている象牙を探し、価格を尋ねた。また、象牙の彫刻職人に会い、象牙をどこから入手したのか調べ、取引経路を特定した。

「エズモンドはたった1人で、象牙とサイの角の取引に関する統計を数値化し始めた。それまで誰も、ちゃんとやっていなかったことだ。彼は本当にデータの人で、事実を重視する人だった」

「数字と値段を知っていれば、市場の傾向を把握できる。彼のおかげだ」

アフリカの調査旅行が2カ月半も続くと、スタイルズ氏は疲れ切っていたが、マーティン氏は大丈夫だった。

「エズモンドはすごかった。ずっと調査を続けていた」とスタイルズ氏。

2人はそれから、アジアや欧州、米国の野生動物の取引市場を調査し、一連の報告書をまとめた。

ケニア人の動物保護活動家ポーラ・カフンブ氏は、マーティン氏は調査結果を独り占めせず、大義のために惜しみなく情報を共有したと話す。

「象牙とサイの角の取引状況がどう変化しているか、彼は誰よりも理解していた」。カフンブ氏は、マーティン氏の直近の調査についてこう言う。

「象牙取引が中国から近隣諸国に移ったという調査結果のおかげで、保護活動家たちは政府に対し、どうロビー活動をすれば良いかが分かる」

保護活動家たちの間では、ゾウとサイを保護するための方法論で議論がある。資金を集めるため、取引を許可し規制する方が良いという意見がひとつ。もうひとつは、世間の意識を変えるため、違法製品の取引を全面禁止にすべきだという意見だ。

「彼は決して偏らず、常に客観的だった。ひたすらデータを集め、それを提示していた。象牙や角の取引について、良いとも悪いとも人前では口にしなかった」

「こんなに長い間、何十年も象牙とサイの角の密輸問題に取り組んだのは、本当に素晴らしい。」

駐ケニア米国大使ボブ・ゴデック氏は、マーティン氏の死はケニアと世界にとっての悲劇だと嘆いた。

ゴデック大使は自分が個人として、マーティン氏の賢明な洞察力や情熱を惜しむと述べ、「エズモンドは動物保護の世界においてまさに偉人で、アフリカのゾウとサイのためにひたすら活動した」と語った。

「素晴らしい調査内容は、世界中で野生動物の密輸を阻止する活動に、多大な影響を与えた」

「アフリカの野生動物は偉大な友人を失ったが、動物保護におけるエズモンドの功績は、この先何年も残るだろう」

(英語記事 Esmond Bradley Martin: The daring investigator who took on the ivory poachers

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-42970477

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